6・薬。
あの女に母の世話をさせることにした。
今までオレがしてきたが男のオレでは母も気まずいこともあるようなので。
身振り手振りで手順を教えていくが飲み込みはイイ。
オレがヤルよりずっと手際もイイのはなぜだ?
こういうことは女の方が向いてるんだろうか?
母に怒りを向けられても怒る気になれなかった。
でも、女に謝るなんてコトはできなかった。
謝るべきだったかもしれないが……
女は黙々と指示された家事や母の介護を続けている。
まるで父に対する母のような態度だと思った。
逆らわない控えめで従順だった母……
なんで母は父に対してあんな態度だったんだろう。
全てを父に渡しても心だけは渡さないとでも言っているかのようだった。
母は女に言葉を教えようとしていた。
ほとんど動けもしないのに……
名前、身の回りの品物、部屋から見えるアレコレ、などなど……
だが一週間もしないうちに母の容態は悪化した。
いつもの薬では持ち直せなかった。
なので村長に相談した。
「有るには有るが……アレは強い薬だしとっておきなので高いんだ。
お前に融通してやりたいとは思うがタダで渡せるほどのモノでもない。
お前の家にはもう売れるモノが畑くらいしか無いのも知っている。
畑が無かったらお前の生活も成り立たないだろう。
お前はよく世話をしてたな。よく頑張ったと思う。
だがお袋さんももう歳だ。
言いにくいが……諦めろとしか言えないな」
もう歳……村長のアンタはお袋達の親の世代だったハズだが……
結局金だということか……
村長の言うとおりオレの家には畑が少しあるだけだ。
村の土地のほとんどは村長が持っていて村民のほとんどは小作だ。
オレの家は数少ない自作農ということになる。
村長はオレの家の畑が欲しいんだろうか?
畑を村長に買い取ってもらって小作になっても別に構わないと思ったんだ。
母のためなら……
どうしたものかと家に帰れば女が夕食を支度していた。
奴隷だ……この女は……
オレの財産だ。
だからオレは女を売ることにした。
人はソレナリの値段で売れる。
足りなければ畑を追加すれば村長も薬を売ってくれるだろう。
折良く村に来ていた馴染みの行商に奴隷商へ売ってくれるように頼んだ。
村々を廻っている行商はこういう依頼を許可されている。
奴隷商は勿論許可制で行商の連中は販売は出来ないが大抵は街にいる奴隷商の
代行ということで買い取りに応じてくれたりする。
勿論、役所と奴隷商の許可証を持ってる奴だけだが。
いざ売るとなったら胸の奥がチリチリした。
一番大事なのは母だ。
家族でも無いこの女じゃあ無い……ハズだ。
そう思うオレの胸はチリチリしたままだった。