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42・故郷。

 ロブが泣いていたと息子が言う。

何故だ? 

この世界とあの世界では時間の流れ方が違う。

ロブにとっては三十数年も前にほんの暫く接触しただけの相手だったはず……

もう忘れ去ってしまっていても不思議でもなんでもないはずだったのだが。


リンゴはあの世界で体を痛めた。

死にかけたのだ。

この世界の聖女が言うことには存在が希薄になってしまったのだと。

希薄……薄い存在……もしかしてココに居たリンゴは幽霊みたいな者なのか? 


それでも娘を産んでくれたし療養生活しかできなくなっても頑張ってくれた。

聖女や神官達の魔法がほとんど効かなくなっても……けなげだった。


息子の時には赤ん坊の時期を一緒に過ごしてやれなかった。

娘は赤ん坊の時期しか一緒に過ごせない。

死期を悟ったのかそんなことをポロリと漏らすリンゴ……

それでも一日でも長く一緒に居てやりたいと頑張ってくれた。


リンゴが死んでからあの世界に出かけた息子から連絡が来た。

ロブが死んだと。

あの世界には最近は息子だけで行っていた。

行きたいと思っては居なかった。

なぜロブの埋葬に付き合ったのか分からない……


ロブは暫く見ないうちに老人になっていた。

……リンゴのことが無かったら。

もしかしたら友人になれたのかも知れない。

だがたとえ死んでも許すという気にはなれなかった。

ロブはもう死んでいるのに……


リンゴが植えたという大木なリンゴの木の枝を持って帰る。

木魔法で根を生やして庭に植えた。

娘が大きくなる頃までに実をつけるだろうか? 

そうなったらコレはお母さんの木だと教えることにしよう。


息子はロブが死んでもあの世界に年に一度通っている。

友人達がみんなオッサンになってるから困ると言う。

ならば通うのを止めるのか? と聞くのだがやっぱり行きたいそうだ。


世界が違うのだから異世界の者は浮いてしまうと思うのだが……


「なんだか田舎のじいちゃんちのような気がするんだよ。

あの世界に行くと深呼吸ができるって気がするんだ。

ロブはもう居ないけどコルナス神官様や友達はまだ居るしね。

お父さんはあの世界はあんまり好きじゃあないって知ってる。

だからもう一人で行くよ。

夏休みの一週間だけでいいから行かせてください。

お願いします」


田舎のじいちゃんちか……

息子にはあの世界は故郷になっているのかも……

禁止もできず許可してしまった。

リンゴの木が枯れない限り息子は通い続けるのかもしれない。


息子の背中がやけに大人びて見えた。

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