31・7年後。
リンゴに意識は無かった。
あればきっと息子のケンタを連れて行くと死んでも連れて行くと言っただろう。
勇都も手放したいとなど思っては居なかったはずだ。
消えてゆく二人をケンタを抱きながら見送った。
結局オレは彼女に詫びの言葉を言うことが出来なかった。
勇都がオレを近づけなかったからでもあるけれど。
この世界に属することが出来なかったリンゴ……
本当に別の世界の女性になってしまったな。
母親も父親も側から居なくなったことを感じ取っているのか……
ケンタは疲れて眠るまで泣き続けた。
リンゴも勇都もこの国の連中の被害者だがケンタが一番の被害者かもしれない。
泣き虫ケンタは毎日泣き続ける。
でもどうしてやることもできない。
抱いて背中を叩いてやるくらいしか……
オレはお乳などでないからなぁ。
老聖女はなんだか若返ったように見える。
何処から見つけてきたのか山羊を連れてきてお乳をケンタに与えている。
カップでそんな小さい子に飲ませて大丈夫なんだろうか?
「孤児の世話をしてたこともあるのよ。
貴族には乳母が付くけど平民じゃあ無理だから。
お乳を分けてくれる女性が見つからなくて……
だから山羊にしたのよ」
難民のようになってる村人の中には授乳中の母親も居るだろう。
村長の妻に金と食料の提供を条件に探してもらった。
まあ、すぐに見つかったよ。
でもケンタが嫌がってしまった。
この人は母親ではないと分かっているのだろうか?
山羊のお乳と同じように搾ってもらってからやっぱりカップでゆっくり飲ませた。
カップにはすぐに慣れたようで嫌がりもせず飲んでいる。
オレと老聖女とコルナス神官以外が抱くと大泣きをする。
ホントに分かってるのかも知れない。
普通は生後八ヶ月くらいまでは見分けなんか付いてないらしい。
人見知りをするというのは見分けが付いてきているということだそうだ。
コルナス神官は勇都が元の世界に帰ったので所属している中央神殿に戻った。
彼の任務はやっぱり勇都の見張りだったそうだ。
「任務を果たしたとはとても言えませんでしたがね。
神殿には何も影響は出ていませんし。
王宮の連中には大きな声じゃあ言えませんがザマアミロって気分ですよ。
勇都やリンゴさんに負担を掛けただけでしたからね」
実を言えば宝物庫の宝はオレが持っている。
勇都にアイテムボックスの魔法を教わったんでソレに隠してるんだ。
なのでコルナス神官に鑑定してもらって少しずつ換金している。
実家の村の村長から他の村にも金を貸してやってもらえないかと頼まれたからな。
オレが直接換金すると怪しまれかねないのでコルナス神官に頼んでいる。
勿論神殿にもソレから寄付もしている。
まあ、口止めと手間賃みたいなものだな。
オレは勇都が居た頃と同じように魔石を集め続けている。
勇都がケンタを迎えに来た時には帰還用の魔石が絶対要るだろうと思ったんだ。
魔獣を狩り、素材を売り魔石を集める。
ギルドのランクは自然と上がっていった。
そうして7年ほど経った頃ソイツは現れた。
……ドラゴン! しかも前回のヤツより巨大なヤツだった。
王宮の連中は勇都を探しに来たがもう帰還していると知ってまた召喚を企てた。
そんなことはさせない!
出来るわけも無い!
老聖女は半年前に神の元に旅立っているからな!