25・赤ん坊。
彼女・リンゴは離婚して欲しいと言う。
でも! そんなことは認められる訳が無い!。
彼女はオレが召喚されたせいで奴隷にされたようなものだ。
彼女のせいでは絶対に無い!
妊娠している……
本人にも父親が誰なのか分からないと言う。
ロブ・行商の男そしてオレ……
鑑定でも産まれる前では分からないと神官達は言う。
産まれるまで待つしか無いのか……
子供には罪は無い……ハズだ。
ソレはリンゴの子供だ。
……オレの子供だったらどんなに良いか……
ロブやあの行商の子供だったら……オレは子供を憎むかもしれない。
最悪……殺すかもしれない。
リンゴの子供なのに……
結婚している妻の産んだ子供は夫の子供と推定される。
そう法律で決まってたはずだ。
ソレを覆すのには家庭裁判所で裁判をしないといけない。
でも、ココは異世界だからオレ達の世界の法律が通用するわけも無い。
子供がオレの子供でなかったら手放させるなんてコトが出来るだろうか?
リンゴの子供……オレの子供でなくても愛してやれるなら……
でもそんな自信は無い。
老聖女はオレ達の帰還の準備を始めた。
オレを召喚するためにかなりの魔力を消費したそうだ。
つまり魔力が落ちているのだという。
ソレを補うためにはやっぱり魔石を使うのが一番だそうだ。
なのでロブやコルナス神官を使って魔獣狩りをしている。
ドラゴンゾンビの魔石はほとんど力を失っていた。
毎晩寝る前にギリギリまで魔力を込めている。
ロブやコルナス神官も順に込めてはいるが満杯にはまだまだ遠いと思う。
ドラゴンの時の魔石は王国に献上させられたがアレが使えるならきっと楽に
帰還陣を動かすことが出来るだろう。
ダメ元で下賜してくれるように申請させてみたがヤッパリ無視された。
フン! 返事すらよこさないとはな。
いよいよとなったら奪取することも考えておくべきかもしれない。
倒したのはオレだ! 王でも宰相でもないのだから。
リンゴ……君を元の世界に連れて帰る……
それだけが今のオレの望みだ。
元の世界に帰ってこんなクソッタレな世界のことなど忘れてほしい。
やさしいリンゴは今日も神殿で祈り孤児たちの相手をしている。
笑顔も見せるけれどどこか寂しげだ。
元の世界でのあの天真爛漫な笑顔はもう見せてくれないのだろうか?
離婚はしない……絶対に!
というか出来ない……オレが納得なんかできないからだ。
彼女のお腹は徐々に大きくなっていく。
無事に産まれるだろうか?
どこかで流産を望んでいる自分に気付いた時には震えてしまった。
子供が自分の子の可能性もあるのに!
八つ当たりのように魔獣を狩りダンジョンを踏破し魔石を集め続けている。
コルナスもロブも何も言わずに付いてくる。
戦闘には有り難い連中だがどうしても鬱陶しく思ってしまう。
何も言わないので余計にそういう気分になっているのだと
分かっているんだろうか?
子供は無事に産まれた。
男の子だった。
誰の子か……と言うより前に神官はとんでもないことを言った。
「こっ、この子! 『勇者』です!」