20・殺意。
ロブと神官・コルナスは旅の休憩時や野営時、立ち寄った無人の村なんかで
浄化の儀式を続けている。
「全部できればいいんですが我々は目的がありますからね。
全面的な浄化は神殿の神官達を動員してやるより他はないです。
ついでですが出来るだけのことはしたいです。」
オレに手伝え! とは言わないな。
ロブは手伝っている。
どうみてもまだまだ効率は良くない。
勇者は神官じゃあないからな。
聖魔法が使えても使う魔力の割には効果が小さい。
仕方の無いことでもあるけどな。
ココの連中に役に立つことなどもうしたい気分じゃあ無い。
それでも野営の時には手伝ったりしている。
召喚をした王城の連中や神殿の関係者の役に立つことなぞお断りだ!
と思ったが一番困っているのは貧しい村々の平民たちだ。
浄化で全てが解決するわけでは無いがいつかこの無人の村にも人が戻って来る。
故郷に戻れる……羨ましい限りだ。
清めた場所にはコルナスがマークを設置していた。
後から来る浄化のための専門の神官達に分かるように。
「専門職なら一発で分かりますけどね。
神官にもレベルがあるので分からない神官が来る可能性もあるんです。
こうしておけば多少でも手間が省けるでしょうから」
神官は真面目な神官だ。
だがそれでも神殿の関係者だ。
あの老聖女をかばおうとしてるヤツだ。
全面的な信用などできないしする気も無い。
ロブは何も言わない。
神官を手伝うのも強制はされていないはずなのに手伝っている。
ドラゴンゾンビはかなりの広範囲を歩き回ったようで全部浄化するにはまだまだ
かなりかかるだろう。
農民だというロブは被害を受けた村々に同情しているようだ。
王や貴族なんぞは生産者な平民の苦労など分かってるヤツは少ないだろう。
勝手な召喚をされたオレの気持ちも……
気が済むなら殺せ! とロブは言う。
アイツが召喚の前に見つかっていればオレは召喚されなかった!
だが見つからなかったのはロブのせいじゃあない……
それは分かっている。
それでもオレはアイツを殺したいと思う。
妻のリンゴをひどい目に遭わせたヤツだと思うだけで
殺意が沸き上がってきてしまう。
稽古の最中にもう何度も殺し掛けている。
いつまで自分を抑えておけるだろうか。
悪い奴じゃあないと分かっていても、ココの世界のルール通りに動いただけだと
分かっていても……
殺してしまったらココの世界の連中はまだ安易に召喚を繰り返すかも知れない。
ロブを勇者として仕立てておけば少なくともロブが居る間は召喚はしないと思う。
今日もロブに稽古をつける。
ギリギリまで追い込んでいるがオレの心もギリギリだと感じている。
リンゴ……君を見つければこの殺意は少しは収まるだろうか。
無事な君に会いたい……ただ会いたい……それだけなのに……