16・退治。
勇者は何度かドラゴンゾンビに接近して確認した。
確かに彼がトドメを刺したドラゴンだと言う。
魔物でも魔獣でもゾンビになることはある。
倒した後でキチンと浄化されなかったり魔石を抜き取らないで放置した時などだ。
あのドラゴンは念入りに浄化の儀式が行われたし魔石も王に献上されたハズだ。
結局その時には理由はハッキリしなかった。
勇者は魔石が抜き取ったモノとは別の代物になっていると言う。
まさか……誰かが別の魔石を使ってドラゴンゾンビを造ったのか?
ともかくもう一度倒してしまわなければ被害が広がってしまう。
瘴気とともに移動しているので国土を穢して行くのだ。
ああなると浄化の儀式をしても作物ができるまでかなりかかってしまう。
5年で済むだろうか? 10年以上かかったという記録まであるのだ……
幸いと言ってイイのどうか分からないがドラゴンの翼が片方無くなっていた。
つまり飛んで逃げられることは無い。
前回は風魔法の使える者達を大勢動員して飛んで逃げようとしたのを妨害した。
今度はソイツラにも攻撃に回ってもらえるだろう。
集められた人員たちは前回の連中がかなりを占めていた。
なので作戦はスムーズに進んでいく。
進行方向を制限して大規模結界の準備された地点へと誘導した。
勇者は魔力を練り最後の一撃を最大威力にするべく準備する。
今回はドラゴンゾンビなので聖魔法を斬撃に乗せるのだと言う。
光魔法を使っていたのは知っているのだが聖魔法まで使えるのか……
一番気楽にしていたのはロブだった。
ほとんど見物人だったな。
だが彼は並みの兵士より遙かに強かった。
実戦を経験しているというのは大きいものであるらしい。
勇者はドラゴン退治の後でもう一度彼を連れて妻を探すつもりのようだ。
軍の連中が情報を集められるといいんだが……
ドラゴンに知性は感じられなかった。
軍や冒険者・魔法使いや神官達、皆の総力を挙げての攻撃で体力を削る。
そして勇者の一撃でケリがついた。
ドラゴンゾンビは骨のみとなって瓦解した。
魔石は輝きを失っていた。
この魔石の力で動いていたらしい。
魔石の素性は神殿の枢機卿が突き止めた。
王城の奥の宝物庫に納められていた大昔に退治された魔王の物だったそうだ。
誰がそんなものを持ち出したのかは王城の連中が突き止めるだろう。
アレがドラゴン由来の物ならもっと強力なゾンビになっていたらしい。
魔王の魔石はドラゴンとは相性が良くなかったようだ。
まあ、これで一件落着だな。
でも勇者は怒りに燃えていた。
軍の連中が情報を隠していたからだ。
まあ、気持ちが分からないでも無い。
ドラゴンゾンビの退治が終わるまで彼の集中を乱したくないというのは……
だが勇者にしてみればこの国のことなどどうでもいいコトだろう。
ドラゴンゾンビの退治を引き受けたのは次の召喚をさせないためでしかない。
何よりも、一刻も早く妻の元に行きたかったのに。
情報を受け取ると目の前にあった机を一つ粉々に粉砕して軍の詰め所を去った。
同僚の神官に後事を託して私は勇者について行くことにした。
ロブは「勇者は危うい」と言う。
確かに私もそう思う。
こうしていても彼の心がジリジリと焼かれているように感じてしまう。
妻の女性を見つけることが出来れば少しは安定するだろうか。
彼女が見つからず老聖女様だけが見つかったりしたら……
彼が老聖女様に危害を加えないとは言い切ることができないのだ。
なんとか見つけないと……
彼女も……老聖女様も……