13・同行。
勇者が殴りかかってきた。
まあ、当然だな。
オレがそう仕向けたからだ。
「女房を守れなかったくせにホントに勇者なのか?」
なんでそんなことを言ったのかって?
勇者に殴られたかったんだよ。
詫びなんぞ言ったところで勇者が納得出来るハズもない。
多分ココに召喚されたことにも納得なんぞできてないだろう。
誰にもその鬱憤をぶつけていそうになかったからな。
死ぬかもしれないと思わなかったわけじゃあないがコイツはアブナイやつだ。
心が壊れかねないと思ったんだ。
戦場にはそういうヤツがゾロゾロいたんだ。
本人は真面なつもりだったりするから始末に負えなかったよ。
勇者はあの女・リンゴの夫だ。
せめて真面なうちに会わせてやるべきだろう。
なので殴られてやることにしたんだ。
気が付いたらやっぱり宿の天井を眺めていた。
神官がなぜか怒り狂って勇者に説教を喰らわせていた。
「ココの法律ではこの人は不法なことをした訳ではありません。
むしろアナタの家族の命をオークから救ってくれたんですよ。
まったく!ドラゴンを始末した時みたいな殺気を放つなんて……
殺人はアナタの所でも重罪なんでしょう?。
いい加減にして下さいよ!」
神官に勇者を責めないように言った。
殴るように仕向けたのはオレだからな。
どうやら回復魔法をおれに使ってくれたらしい。
ソレには感謝しておかないとな。
「少しは気が晴れたか?」
勇者は何も答えなかった。
まあ、どれだけオレを殴ったところで気が晴れるものでもないだろう。
オレは勇者の大事なものを踏みつけにしたヤツだからな。
勇者はどうも真面目なヤツらしい。
こういうヤツはなんでも自分で抱え込んでしまうヤツが多い。
周りの人間に頼ろうとはしなかったりする。
そうして抱え込んだものを捨てることも出来ずソレの重さで
動けなくなったりする。
発散するのは本人が思ってる以上に大事なコトだと思う。
ココはコイツの世界じゃあ無いからな。
ウカツに発散するわけにも行かなかったのかもしれない
「呆れましたね。
彼はドラゴンを退治した勇者だって言ったのを聞いてましたよね?。
人間なんぞその気なら瞬殺だって分かってたでしょうに……」
分かってたさ。
だがオレはコイツの所有物に手を出したんだ。
報いの一つぐらい受けるべきだろう?
ソレが妻なら殺されても文句は言えないと思うがな。
「だからって……
死ぬのが怖くないんですか?」
徴用で兵士をしてたからな。
死は隣に常にあるものだった。
死んで残る未練は母だったがもう母は死んだ。
母の薬のために彼女を売らざるを得なかったんだ。
今更死を恐れる理由は無いんだよ。
母の遺言は彼女を買い戻すようにと言うことだった。
だから村から出てココに居る。
ともかく見つけるまではお前等と一緒に行かせてもらいたい。
行商人が誰かお前等じゃあ分からないだろうからな。
勇者は苦い顔をしていたが拒否はしなかった。
殴ったことを謝ろうともしなかった。
まあ、謝って欲しいわけじゃあない。
コッチが殴らせたんだしな。
神官はおろおろしていたが諦めたようにため息をついた。
すまんな。
多分この神官は見張りか案内係だろう。
オレみたいなお荷物が増えるなんてのは予想外だっただろうからな。