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11・妻。

 ドコですれ違ったのかあの女を買った馴染みの行商に追いつけなかった。

大抵は同じコースを廻っているハズなんだが……

コースを変えたのかも知れない。


宿の食堂で夕飯を食べた後でなんとなく指輪を取り出した。

コレを返してやればあの女は喜ぶだろうか? 

いや……あの赤い実と共に庭に埋めたんだ。

喜ぶより困るかも知れない。


贈った男に申し訳ないという気持ちだったとしたら……

オレは謝っても多分許してなんか貰えないだろうな。


指輪の内側にはなにか文字のようなものが彫ってある。

これは何かのマジナイとかだろうか? 

それともタダの模様なんだろうか? 


そんなことをぼんやり考えながら指輪をいじっていたら落としてしまった。

転がっていく指輪を追いかけた。

ソレは宿の受付の所に居た神官と冒険者らしき男の足下で止った。

冒険者が拾い上げたので礼を言って返してもらおうとしたんだ。

ところがソイツの顔色が変わったと思ったら首元を捕まれて締められた。

反応するヒマも声を上げるヒマすらもなかったよ。

あっという間にオレは意識が落ちてしまったんだ。



気が付いたら宿の部屋でベッドの中だった。


「まったく! 何を考えてるんですか!? 

この人が何をしたって言うんです? 

指輪を落として拾おうとしてただけでしたよね。

なんだっていきなり締め落としちゃってるんです! 

いくら勇者でも関係ない平民にこんなコトをしてイイ訳ありませんよ!」


勇者? 

勇者ってアレか? 

先頃出た上級魔獣のドラゴンを苦も無く倒したって噂の? 

そんなヤツがなんだってオレなんかを構ってるんだ? 


「目が覚めたみたいだな。

いきなり取り付いて悪かった。

締めるつもりじゃあなかったんだ。

あの指輪のコトを教えて欲しい。

ドコで手に入れたのかが知りたいんだ」


勇者か……オレなんかが敵う相手じゃあないのはあの一瞬で理解した。

指輪のことを聞いてきているが聞きたいのは指輪のコトじゃあなくて多分

あの女のコトだろう。

なので知ってる限りのコトを教えてやった。

オレが夜の相手をさせたことも。


勇者は両手を組み合わせている。

ソレは細かく震えている。


神官が聞いた。

「指輪がそのひとのモノだとどうして分かるんです。

特になにもデザインとかされていないただの指輪でしょうに。」


「内側に文字が彫ってあるんだ。

お互いの名前を彫って相手に贈るのが故郷の習慣なんだよ。

婚約とか結婚とかの時に。

コレは結婚したときに交換した結婚指輪だ。

オレのと同じ文字が彫ってある」


左手の指から外した指輪は大きさが違うだけで同じモノだった。

結婚指輪……結婚してたんだな……


「赤い実はリンゴという果物だ。

アイツの愛称でもある。

ほんとの名前は鈴子すずこだが文字の読みようでリンゴとも読める。

親しい者たちはみんなリンゴと呼んでたんだ」


名前はスズコで愛称がリンゴね。

そういえば名前を聞いたことは無かった。

だがオレにはその名前を呼ぶ資格は無いな。

亭主が居るならなおさらだ。

それにこの勇者はさっきからオレを殺したいってオーラを飛ばしている。

名前なんぞ呼んだら瞬殺されるだろう。



 神官は焦っていた。

勇者の妻を奴隷扱いした上に夜の相手をさせただなんて! 

国を救ってくれた勇者になんて仕打ちをしてくれたんだ! 

でも誰のモノでも無い女性を奴隷にするのは保護するという意味もあって

この国では合法なのだ。

ちゃんと村長が認めているという話だったし……


それでもこの男は一旦は売り払った彼女を取り戻そうとしている。

勇者の妻だという女性はどこに行ったんだろう。

買っていった行商の行方が分からないなんて……

聖女様と勇者の妻……探す相手が増えてしまった。


アレコレ考えているうちに何を言われたのか勇者が男に殴りかかったんだ。

こっ! 殺す気でかかってるよ!!! 

相手は人間なんですよォ! ドラゴンじゃないんですってば!!! 

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