ダイジェストでお送りしましたって許可なくするのはやめて欲しいものだ
久しぶりの投稿になってしまったことをここに謝罪します。
去年の自分を振り返り、ざっとした悪逆非道とまではいかないが褒められた行動をしていなかった日々を篠田さんに話した。授業をさぼったり、ちょっとしたいたずらをしたり、喧嘩したりだとかダイジェスト形式で話した。今思い返してみるとやはり去年の自分は傍若無人だったな、なんて思ってしまうくらいだ。
「櫻木君って去年はそういう人だったんですね」
篠田さんは若干引き気味で言っているが、「去年は」と区別をつけてくれたことに少し喜びを感じる。
「そう。だから警察沙汰は多くないけど何回かは経験してるし、親から自宅で謹慎してろなんて言われるのも珍しいことじゃないんだよね」
「そう、なんですか」
「そうよ。櫻木君はね、今じゃこんな静かなフリをしているけど去年は一年坊主のくせに生意気だって先輩たちの格好の的でよ~く喧嘩してたんだから。今じゃこんな静かなフリをしているけどね」
二回繰り返さなくたってわかってますよ。
「でもなんで、その傍若無人をやめてしまったんですか?」
面と向かって傍若無人と言われると恥ずかしいものがあるな。
「あ!それ、私も気になってた!ど~してけーいちがオラオラってするのやめちゃったのかって」
オラオラってやめてくれよ、恥ずかしいな。
「そうだな、別に殊勝な理由があるわけじゃないけど。ただ、疲れた?っていう表現が正しいのかわからないけどもうやめたくなったんだ。人に迷惑かけるのが良いことじゃないってやっと気づいたのかな」
なんて半笑いになってうやむやにして言っている自分に腹が立つ。全部を話してある佐久間からしたら嘘をつくんだって思われてんだろうな。
純粋に聞いている人は神妙な顔で話を聞いてくれているが、それがまた自分の罪悪感を刺激する。
「私は啓一のおかげで変われたから、前の啓一も好き」
光はいつも俺の味方をしてくれる。あぁ、こんな妹がいたらもっとかわいがっていたんだろうなぁ。
「そうだった。その時の啓一は金髪だったもんな。ほれ。」
佐久間は携帯を取り出し去年撮った写真を見せる。
その写真にいる俺は今の俺とは別人のようで、似合いもしない金髪で壊れたように笑っている。
「あれ、佐久間君も藤堂先輩も染めていたんですね」
「まあね。俺も似合わず青色の髪だったんだよな。まあ俺は今も茶色に染めてるんだけどね」
「そうね。私もこんな感じの薄い金髪だったわね」
「結局、その時の色のままなのは千春ちゃんと光ちゃんだけだもんね」
「私はこの髪色気に入ってるからねー」
「千春ちゃんは似合ってるからグッドだよ」
「そう?ならいいんだけどねー」
なんとか俺の過去の話から脱線してみんなの興味が他に移った。
すっかりみんなは談笑に夢中になって小一時間経った。そろそろ、母さんが買い物から帰ってくるだろうなと思っていたら藤堂先輩から爆弾を投げられる。
「そういえば、櫻木君。デートよ。忘れてないでしょうね?」
いや、藤堂先輩も今そういえばって言ったじゃん。忘れてたじゃん。忘れたままでよかったのに。
「そう。あからさまに嫌な顔をしない。これは、そう罰だったわ、だから決定事項なの」
「そうだよー。先輩の言うことは逆らったらだめだよー」
なんかそういやそんな罰を食らったな。てか、罰を受けるきっかけは千春がバラしちゃったからだろ。まったく。
「わかったって。でも、どうするんだ?俺は自宅謹慎してるんだぞ」
「家から出ようと思えば出れるでしょ?別に私は二人きりのお家デートでもいいのだけど?」
「勘弁してくれ。わかった。家から出ればいいんだろ?」
「やったー。けーいちとデートだぁ!」
「よくやった、美紗樹先輩」
「なーんだ。俺だけ仲間外れかよ。まあいいけどねー」
篠田さんは不思議そうな顔をする。
「え、私もデートすることになってるんですか?」
「まあいいじゃんいいじゃん。啓一に恩返しだと思って」
「は、はあ」
流されてるなぁ、篠田さん。まあもう三人とデートするのが決まっているなら一人増えたところでってところもあるしな。金の消費量が増えていくばかりだけど。
「じゃあ、そろそろゴールデンウィークですし。ゴールデンウィークに連日デートでいいわよね?」
「いや、スタミナがきついんじゃないかなって思うのですが」
「何を言ってるの、櫻木君。思春期真っ盛りの十六歳がこんな美少女たちと連日でデートできるのよ?世の思春期男子に恨まれる前に快く承諾しなさい」
いや、自分のことを美少女って言うか?まあ美少女ではあるけどさ。
「わかった。ゴールデンウィークに連日デートね」
そう言い終えると、落ち着くのを見計らったように玄関のドアが開いた。
「ただいまー。あら、靴がたくさん」
母さんがリビングに顔を出す。
「あら、たくさんお友達が来て。初めて見る子もいるわね」
「あ、篠田結衣っていいます。このたびは迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」
篠田さんはソファから立ち上がりペコっと頭を下げた。
「あー、そう。この子が。いいのよいいのよ。ちゃんとしているようで良かったわ」
「じゃあ、この辺で俺たちは帰らせていただくとしようかな。せっかくの家族団欒を邪魔しちゃ悪いしねー」
そうして、みんなは各々帰る準備をし玄関に向かう。
「んじゃ、お邪魔したな。早く学校来れるよう家では真面目にしてるんだぞ?」
佐久間はイヤミ混じりに靴を履いていち早く家を出た。
「あ、篠田さん。ちょっといいかしら」
母さんが帰ろうとしていた篠田さんを呼び手招きする。
耳打ちでゴショゴショっと何かを伝えると篠田さんは一礼して、ちゃんと「お邪魔しました」と言ってからそそくさと家を出ていった。
その他の面々も二人の後を追うように家を出ていった。
「はあ、急に静かになったな」
みんなが家を出て扉が閉まる音と共に嵐が去ったような静けさが訪れる。
「啓一も隅に置けなくなったわねぇ。私が帰ってくるたびに新しい女の子が増えてるんですもの。お父さん似でモテるのかしらねぇ」
「やめてくれよ。佐久間だっているだろうに、別に俺のために集まってたわけじゃないよ」
「そうかしら。だって、ここはあなたの家よ?」
「まあ、そうだけども。まあ、知らねーわ。考えんのもめんどくさい」
「青春ね」
そんな言葉で片づけてほしくないし。親からそんな恥ずかしい言葉聞きたくなかった。
「あれ?美紗樹先輩、帰り道こっちでしたっけ?」
今は櫻木家から出て、家の近い千春ちゃん、駅に向かう光ちゃんと篠田さん、家まで歩いて少しある俺で別れたが駅に向かうはずの美紗樹先輩がなぜかついて来たっていう状況だ。
「そうね。私は駅に向かうはずよね」
「じゃあなんで?」
「そんなの決まっているじゃない。あなたに聞きたいことがあるからよ」
そう言いつつ美紗樹先輩は眉を顰める。
「な、なんですか?」
その威圧的な目に俺は参ってしまう。
「あなた、今回のこと私はやりすぎだと思っているわ」
「はぁ?」
「とぼけないで、春休みの話は知らないけれど今回の拉致騒動はあなたの仕業でしょ?」
「まあ、そうですね。確信があるようですし、隠しませんが、確かに今回の首謀者は俺です。それが何か?」
「それが何かじゃないでしょ。親の権利を使って」
「美紗樹先輩、どこまで知ってるんですか?」
「別に、あなたも私のことを知っているでしょ?それなりに私もあなたを知っているだけよ」
「食えない人だ、あなたも」
「そうね。お互い様じゃないかしら」
美紗樹先輩はニヤリと笑う。俺は今どんな表情をしているのだろうか。
「じゃあ先輩、俺からも一つ聞きたいです」
「何かしら?」
「先輩は、今の啓一でいいと思っていますか?」
「どういう意味?」
「啓一は今、前みたいに笑えていない。もちろん話しているときに笑っていたりしますが、ほら、この時みたいにあいつの本気の笑顔を最近見た記憶がないじゃないですか?」
俺は啓一の家でも見せた携帯の写真を見せる。
「そうね。見てないわね」
「だから、俺は前の啓一に戻ってほしい。生き生きとしていた啓一に戻ってほしい」
「でも、それが理由で拉致していいなんて繋がらないわよ」
「あいつには今の生活じゃ刺激が少なすぎるんですよ」
「だから?あなた、イカレてるわね」
「なんでもいいですよ、別に。それで質問に戻るけど、先輩は今の啓一でいいと思ってるんですか?」
先輩は言い淀む。そりゃ先輩も楽しかったあの頃の啓一に戻って欲しいに決まっている。俺だってそうだ、本気で笑えていたあの頃の啓一に戻って欲しい。
先輩はたっぷり間をあけてから、ゆっくり口を開いた。
「そんなの決まっているじゃない、前の櫻木君に戻ってほしいわよ。でも、私はそれを望んではいけないの。それはあなたにだってわかっているでしょう?」
「まだ、ひきずっているんですか。やっぱりまだ啓一のこと」
「言わないで!……お願いだから、その先は言わないで、私自身は戻りたくないの。戻ってはいけないの。戻ってしまったら櫻木君に合わせる顔がないじゃない」
「そうですか、わかりました。この辺でいいですか?もう俺の家着くんで」
「ええ、そうね。それじゃあ、学校で」
先輩はそう言い踵を返して駅の方へ向かっていった。
その後ろ姿は、そのモデルのような身長に見合わずなんだか小さかった。
1ヶ月とちょっとの間待っていてくださったみなさん、ありがとうございました。
これからも続いていきますので応援よろしくお願いします。




