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自分の思い出は美化しがち


 春。それは、出会いと別れの季節。

 しかし、その年の春は俺にとってうれいの季節でしかなかった。



「ねえ、かっこつけて話さなくていいから。普通に話してちょうだい」


「はい。すいませんした」


 語り手にてっしようと思ったのに恥ずかしいな。


 じゃあ、真面目に。



 去年の春の入学式、俺は入試一位の成績を取ってしまったため、新入生代表挨拶を入学式で行うことになっていた。実際の話、入学式の前の春休みから高校には通っていた。入念なリハーサルと代表挨拶の時に読む

原稿の下準備のために。

 だから俺は入学式当日も一般の生徒よりも早く(今は改修工事中の)体育館に最終リハーサルのため登校してた。俺は、ステージに上がるまでの姿勢、ステージ上での声の大きさなどを教師陣から事細かく指示されて辟易へきえきしていた。

 なんだかんだ不満が募りつつも、リハーサルも終わって、自分の割り当てられたクラスで待機していろ、という指示が下ったので楯突たてつく理由もないので従順じゅうじゅんに指示に従った。

 体育館に行く前に確認していたクラスの教室に行くとすでに何人かの生徒がバラバラと各々の席に着いていた。

 運良く同じ学校で同じクラスに慣れてワチャワチャしている女子もいれば、アウェイな空間にひっそりと身を置いている者もいる。

 黒板に張り出された座席表を見ると相変わらず名字が「さ」の宿命なのか座席は真ん中の列だ。一度は座ってみたいな、年度始まりに端っこの席。なんて毎年思ってる。

 話を戻して。座席表を確認しその席に向かうと俺の前の席にはもう人が座っていた。前髪をいじり倒したいけ好かない好青年が座っていた。俺が後ろに着席するのを確認するとそいつは馴れ馴れしく話しかけてきた。


「どうも。はじめまして。俺は佐久間弘幸。気軽にさっくんって呼んでね」


「はじめまして。佐久間君。俺は櫻木啓一。気軽に呼ばないでくれ」


「ハハッ、面白いね。君」


 佐久間はこの時、愛想笑いではなく心から笑っているように見えた。


「何がおかしいんだ?」


「いや、なんでもないよ。ふーん、君のこと気に入ったよ。友達になってくれないか?」


「友達ってなるもんなのか?自然とできるもんじゃないのか?」


「おいおい、そんな甘いこと言ってられないんだよ。高校生活はね」


「そうか。でも嫌だな。こんなチャラついた奴と今後一緒にされるのは」


「ハハハッ、やっぱり友達になろう。いや、もう友達と言ってもいいじゃないか」


 正直に言って、佐久間の第一印象は最悪だった。

 だけどすぐにその印象は塗り替えられた。

 それは、佐久間のペースで会話が進みだんだんと佐久間ともくだけた口調で話す用意なって、俺が始業式の新入生代表挨拶をやることを打ち明けたころだった。


「へぇー。すごいじゃないか。君って意外と頭がいいんだね」


「まあな。だがめんどくさいもんだよ。リハーサルは多いし。思ってもないこと言わなくちゃならないし」


「はー。そりゃご苦労なことだね。でも名誉ある事じゃないか」


「そうか?こんな三流の高校の入試トップなんて別に誇らしくもなんともないんだけどな」


「あまり大きな声で言えないことを平然と言えるから君は面白いね」


「正直に言うと、この高校は俺にとっては家から近いという理由で選んだ滑り止めだ。だからそんな高校の教師にああだこうだ指示されて操り人形にされるのが腹立たしくてな」


 実際、第一志望や第二志望の高校の入試もうまくいっていた。自己採点した結果も基準値を大幅に超える点数だった。だけど、どちらの高校も最後に面接試験があった。

 俺は、この面接試験というシステムが気にくわなくて仕方がない。面接で自分がどれくらいの評価を受けているなんてわかりようがない。逆に言えば筆記試験が良かったとしても面接試験でどうにでも落とせるところが気にくわないのだ。

 だから俺が落ちたことを知ったときは何が悪かったのかストレートにその学校に電話で問いただした。そしたら回りくどく「そういうところ」みたいな回答が返ってきた。俺も、そんなんで落とすような学校じゃやっていけないと吐き捨てて電話を切ってやった。


「そうか。なるほどね。じゃあ思い通りにさせなきゃいいんじゃない?」


 その一言が佐久間の印象を覆す一言であり、俺にとって今後を左右させる悪魔の一言だったことをこの時はまだわかっていなかった。


「思い通りにさせない?」


「そう。君はステージに立つ、そして教師陣が予想だにしなかったことをするんだ。想像してご覧?今まで君を操ってきた人たちの呆気あっけにとられる顔を」


「お前は、……………いいだろう。あえてその提案に乗ってあげようじゃないか。面白いものを見してあげるよ。まあ、あまり期待せずに見ておきな」


「わかった。期待せずに見ておくよ」


 そうして俺は佐久間の提案に乗った。

 今思うとこれがすべての始まりだったのかな。



 そして始まった入学式。

 着々と進んでいく中で俺はステージの袖で自分の出番を待機していた。

 校長先生の現代文の知識を総動員しても何が言いたいのかさっぱりわからないありがたいお言葉をいただいて、現生徒会長の意味のない自慢話を聴き終わると俺の出番がやってきた。

 放送委員が体育館にある放送室でマイクを通して俺の名前を呼ぶのが合図に、俺はステージ袖から原稿を片手に全校生徒の注目の的のマイクの前に立つ。自分が今からやることを考えたらなぜか緊張はしなかった。


「どうも、はじめまして。この学校の一年生の中で一番優秀な成績を収めました。櫻木啓一です」


 原稿とは全く違う滑り出しにステージ袖の教師陣はざわついている。だがまだ足りていない。


「ですが、一番優秀といってもこの高校という狭い範囲での話です。どんぐりの中で一番背が高かっただけなんですよ。だから別に嬉しくも誇らしくもありません。逆にここまで持ち上げられると不快感さえ感じてしまいます。ですので優秀なのはもうやめます」


 そう言って俺は、教師陣と春休みから試行錯誤を重ねた原稿を全校生徒の前でビリビリに破いた。

 当然、全校生徒はざわついた。もちろんステージ袖の教師陣もざわついていた。あいつをステージから降ろせなどという声が聞こえてくる。俺にはその時それが快く感じられた。

 不意に一年生が固まっている方に目をやると一人身長がモデル体型の前髪を遊ばせた奴が満足そうに笑っていた。「やっぱり、君は面白い人だ」なんて思ってそうな顔をしながら。


 今思えば、あの頃の佐久間と今の佐久間ってキャラが全然違うな。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


感想・レビューお待ちしております。


@sakuranomiya_ssというアカウントでTwitterをしていますので、足を運んでいただければ嬉しいです。

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