思い出話は突然に
前言撤回。レジャー部のみんなが来たらいい感じに暗い気持ちが晴れた、なんてありえなかった。
それぞれが勝手にリビングに入るや否や、ソファでくつろぐ者、テーブルにあったお菓子に手を伸ばす者、リビングをウロチョロしソワソワしだす者がいるような、三者三様ならぬ五者五様の振舞いだ。この光景を見ていると、めんどくさいなという暗い気持ちがまた湧き上がってくる。
「で、何しに来たんですか?みなさんは」
「そんなの、さっきも言ったじゃない。心配して来たのよ」
「はい、それは聞きました。じゃあ、俺は元気ですので、どうぞお帰りください」
美紗樹先輩が答えるが、心配してきてくれたのは嬉しい、だけれども、元気ということがわかったなら帰っていただきたいものだが。
「けーいち冷たいなぁ。せっかく来たのにー」
「いや、千春は家が近いんだから恩を着せようとするんじゃないよ。来ようと思えばすぐに来れるだろうに」
千春はブーと頬を膨らませながら不満を表す。そんな幼稚な表現をまだ使っている現役女子高生はどうかと思われるが千春の可愛さがあるから許せるのだろうと思う。
千春とは幼馴染だけあって家が近い。小さい頃は家に行き交わすように遊んでいたのだけれど。中学生になったころからそれはなくなっていった。
「啓一、私たちは迷惑?」
「迷惑ではあるな」
嘘はいけない。実際、迷惑だ。
「そう、じゃあここにいる」
「え、なんで?」
一瞬、暗い顔をしたから落ち込ませてしまったかと思ったが、論理の破綻した回答に食い気味で疑問を投げかけてしまう。
「啓一の困った顔が見たいから」
光よ、そんなキラキラした目でドSなことを言わないでくれ。あっちに目覚めてしまいそうだ。
光は沈黙を了解と取ったのかソファでくつろぐのを再開する。
「光さんには甘いのね、櫻木君は」
いいじゃないか。だってかわいいのだもの。
それと、さっきからニヤニヤしている佐久間、お前は帰れよ。まあ、口に出したところで帰るような奴ではないけれど。
「そういや佐久間、俺の教材とノートを明日でもいいから持ってきてくんね?いきなりだったから教材なんて持って帰ってないし」
そんな佐久間には肉体労働をさせよう。
「そうか、また長くなるのか。今回はどれくらいなんだ?」
「今回は短いさ前に比べたらな。せいぜい、一週間かな」
「そうか。そんなものなのか」
そんなものなのかってなんだよ。まるでもっと長いことを予想か期待していたような口ぶりじゃないか。
「またお母さんの罰なのね。でも今回は大して長くなくてよかったじゃない。七連休うらやましいわ」
「そっか~、けーいちのお母さん帰ってきちゃったのか。それじゃあ仕方がないね」
「啓一のお母さんは厳しい、けど愛がある」
みんな思うところがあるようだ。美紗樹先輩のそれは皮肉にしか聞こえないが。
「お母さんの罰?」
一人話についていけてない篠田さんは隣にいた佐久間に話しかける。
「ああ、篠田さんは知らなくて当然だね。今回の警察沙汰で啓一のお母さんが怒って啓一を自宅に罰として一週間の間軟禁生活を送ることになるのさ」
「え、私のせいで……」
佐久間の話を聞いた篠田さんは顔を落ち込ませる。
「まあ、そうなんだけど。気にしなくてもいいよ。これが初めてってわけでもないし、勝手に首を突っ込んだ自分も悪いしね」
「そうですか……」
「そうよ。櫻木君の去年なんて悪逆非道の繰り返しでなんどもお母さんの罰を食らって軟禁生活を送って学校に来ないなんてざらにあったわ。それなのに成績が学年一位なんだから人生二週目を楽しんでるんじゃないかって疑うわ」
「去年の啓一は破天荒だった」
「けーいちは今年になって落ち着いただけだもんねー」
途中からフォローになってないし、ただの俺の悪口になりかけてるし。人生二週目って何?
まあ、自分でも去年の俺の振舞いは思うところのある行動が多かった。反省してます。
「どんな感じだったんですか、去年の櫻木君って?」
いやぁ、気になるのは仕方がないだろうけど、掘り下げなくていいんだけどなぁ。俺の黒歴史なんて聞いててこっちが悶えてしまいそうだよ。
「そうね。どうせ背びれも尾びれも付いた噂が届いてしまうのだから、今のうちに本当にあった話を聞かせてあげるのもいいかもね」
「啓一の武勇伝を聞いてほしい」
まあ、一理あるけど。てか、光さん、ハードルを上げないでくださいな。
「啓一が話したくないようだったら、すべてを知る俺が話すぜ?」
いや、お前が話したら色を付けて話しそうだし。俺の心情までは知らないだろ。
「わかったわかった。話すよ。お前が話すと盛るだろうし」
俺の意思表示が伝わったのか一同が聞く態勢になっているようだ。
「それじゃあ、どっから話すか。まあすべてを言うなら入学式からか」
俺が思い出すのは忘れたい過去、忘れられない過去、忘れてはならない過去。
レジャー部のみんなと出会い一悶着も二悶着もある話。
そして俺の意識は一年前の春に遡る。
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