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 避けているわけではないのに、部活をやめてから構内で部員と会うことが少なくなった。 帰り際につい見てしまう文化部棟の二階から目線をうつし、色が薄くなってきた楓の葉を見て「秋だなー」などと思っていると、後ろから「水上さーん」と呼ばれたので少し驚いた。

 図書館の方に伸びる上り坂に振り向くと、夏川と一年の舟形(ふなかた)が並んで坂を下りてきていた。

「おう、なんか久しぶりだな」

「そうですね、OBの誰かさんが写真部を見捨てて全然部室に来ないからですかねー?」

「相変わらずそうでなによりだ」

「いや、廃部寸前ですよ」

「写真部最後の部長になれるぞ、よかったな」

「不名誉じゃないですか。OBのコネと権力で何とかしてくださいよ」

「で、廃部寸前って本当か?」

 水上は舟形に聞いた。

「何事もなく、平和です」

「部長が頼りなかったら下克上してもいいからな」

「しませんよ。まだ」

「まだ?」

「まあ、頑張れ、部長。背後とか夜道に気をつけろよ」

 夏川に向き直って言った。

「そのときは部長の座を譲りますよ」

「そんな余裕があったらいいがな。これから部室か?」

「はい。活動内容も前と変わらず、まったりやってますよ」

「それは何よりだ。そんじゃな」

 そう言って歩き出そうとした水上に、

「あの、水上さん」

 と舟形が話しかけた。

 水上は舟形とあまり会話したことがなかった。二人とも積極的に話しかけないうえに水上は新入部員が入ってから二ヶ月しないうちに部活をやめたからだ。今の写真部には男は夏川と舟形だけなので、相性が悪かったらと心配したが、見たところ問題ないようだ。

「なんだ?」

 水上としてはなるべくやさしい声音で言ったつもりだったが、どう聞こえたのかはわからない。学年が三つ下というのは今までにない距離感なので接し方がぎこちなくなってしまう気がする。

「古本屋でバイトしているんですよね?」

「そうだな。もうすぐやめるけど」

「そうなんですか。それなら後任というとなんですが、次のバイトの人は決まっていますか?」

 舟形の口調が少し早くなった。

「いや、決まってないよ。バイトしたいのか?」

「はい」

 力強く言った。

「そんなら店長に話しとくよ。あー、その前に仕事内容とか話しといた方がいいか。始めてから『思ったのと違った』っていうのも嫌だろうし」

「お願いします」

「それじゃ、今から部室に行きましょうよ」

 二人の会話を聞いていた夏川が言った。

「部活がはじまるまでの時間でちょうどいいか。それでいいか?」

 水上は舟形に確認した。

「はい。よろしくお願いします」

 数ヶ月ぶりの部室は特に変わっていないようでいて、所々に小さな変化があった。話しながらそれらを見つけていると、後輩たちが部室に一人ずつ増えていった。部活のはじまる時間になったので水上は帰ることにした。

 部室の扉の前で、

「あ、そうだ。舟形は猫は好きか?」

 と尋ねた。

「好きですよ」

「なら大丈夫だろう。それじゃ」

「ありがとうございました」

 水上は部室を後にした。帰り道の途中で、夏川からお礼のメールが来た。礼を言われることではないと思うが、「どういたしまして」と返信した。自然と、少しだけ口が綻んでしまった。

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