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「内定おめでとう」

 水上に会って、古泉はまずそう言った。

「おかげさまで?」

 彼は少し照れくさそうに笑った。

「いろんな人の?」

「そうだな」

 並んで歩いて、近くのファミレスに入った。


 平日で昼ご飯にはまだ早い時間帯なので、ファミレスは空いていた。

「内定祝いということで、私の奢り」

 座ってメニューを開いたときに古泉が言った。

「蓮の時は俺に奢らせろよ」

「うん。そのために頑張る」

「あまり期待しないようにな」

「善処する」

 たびたび来る店なので頼むものはだいたい決まっていた。二人ともほとんど悩まずに、ボタンを押して店員さんを呼んだ。すると、割烹着のような服の上に黒いエプロンを着けた天水がテーブルの横に立った。

「申し訳ありませんがカップル限定のメニューはございません」

 何も注文していないのに天水に言われた。天水はこのファミレスでバイトをしている。

「焼きイワシ定食と杏仁豆腐で」

 水上は無視して注文した。

「海鮮丼と若鶏のからあげ、あと杏仁豆腐」

 古泉も気にせず注文した。天水は注文を素早くメモしながら、

「杏仁豆腐は不意にお持ちしますか?」

「食後でお願いします。今日バイト入ってたんだな」

 口調を変えて水上が話しかけた。

「お昼過ぎまでね。そのあと部活に行くよ」

「じゃあ、またそのときな」

「いやいや、何の前触れもなく杏仁豆腐持ってくるから」

「油断した頃に頼む」

 と古泉が言った。

「ではではお二人とも、ごゆくっりどうぞ」

 天水はそう言い残して店の奥へと去って行った。

「いいのか、それで?」

「ちゃんと食後に持ってきてくれる。真面目だし」

「そうだな。真面目だ」

 二人は天水が入っていった奥の扉の方を見ながら言った。

「水取ってくる」

 水上が立ち上がり、少しして二人分の水を持ってきた。

「ありがとう」

 お礼を言ってから古泉は一口飲んだ。間を置いて、

「写真部をやめようと思う」

 と水上が言った。

「いつ?」

「今週か来週中には」

 古泉は自分でも意外なほどに驚かなかった。前回の部活の時の水上の様子で、察しがついていたのかもしれなかった。

「そう。天水には言った?」

 水上は小さく笑った。

「ん?」

「いや、天水にも同じこと聞かれたからさ」

「そう。ならいい。私もそのうちやめる」

「俺がやめるから、ってわけじゃないだろ」

「うん。天水に合わせる」

「それがいいよ」

 天水が頼んだものを台車で運んできたので、一旦会話が途切れた。

「おまちどおさま。杏仁豆腐でーす」

 焼きイワシ定食が水上の前に、海鮮丼が古泉の前に、からあげがその間に置かれた。

「杏仁豆腐以外は揃った」

 古泉が状況を説明した。

「杏仁豆腐は忘れた頃にお持ちします」

「食後で頼む」

「かしこまりました」

 天水は再び奥へと消えていった。

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