一
三月と四月は就職活動のため何度か部活を休んだ。そのおかげか、四月下旬に水上のもとに採用の内定通知が来た。通知書を読んで一安心して封筒にしまい、少ししてからまた見返した。じっくりと読んで確認してから古泉と両親にメールを送った。
数分後、古泉から返信が来た。本文はおめでたい絵文字に挟まれた『おめでとう』の一言だった。水上は『ありがとう。蓮も頑張れ』と返信した。すぐに『がんばる』というメールが返ってきた。忙しそうなのでそれ以上は返信しないことにした。
ゼミで使う資料を作成していたところに内定通知が来たので、作業を再開しようとパソコンの前に座ったが集中できなかった。仕方なく本でも読むことにしたが、文字を目で追うだけで内容が頭に入ってこない。
古泉から借りている猫の写真集を開いた。和みながら眺めていると、マナーモードにしている携帯電話がふるえる音がした。三回以上ふるえたのでメールではなく電話だとわかった。まさか内定は何かの間違いでしたというような電話だろうか。一瞬だけ不安になったが、液晶に表示された名前は母のものだった。
まず、「内定おめでとう」と言われ就職活動のことを労われた。次に勤務地のことを聞かれた。勤務地は具体的には決まっていないが水上の出身県内である事は間違いない、と伝えた。
通話を終えるとそれなりに落ち着いてきた。父からも内定を祝うメールが来ていた。それを見てから待ち受け画面の日付が目に入った。大学生でいられるのもあと一年を切った。懸念といえば卒業論文くらいだが、期限はまだ先だ。
今すぐやらなければならないことはないな、と思い一息つくと、手狭になった写真部の部室のことが脳裏に浮かんだ。
今年は新入部員が三人入って、三人とも休むことなく来続けている。もともと五人でちょうどよいくらいの部室なので、八人が揃ったときは少し窮屈だった。
狭い部室に八人もいるのを見て、もういいかな、と水上は思った。
急な思いつきではないが、写真部を辞めることはまだ誰にも話していないので、同級生の古泉と天水には連絡をしておくことにした。
メールを作成して送信しようとしたが、宛先から古泉の名前を消し、天水だけに送った。古泉には電話をかけた。