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不良メイドと異世界の街々(3)


「うーん、どうしよっかなぁ……」


 その日、サラは眉間にしわを寄せて手元に握った紙幣を睨み付けていた。

 ざっと見ても十数枚はある。途中加入ゆえの日割り計算だが、サラからすればとんでもない金額だ。


 なにせ、これがあればこちらの世界の品物が買えるという。


「ぐぅ……むぅ」


 悩む。いろいろと欲しいものはあるが、再来週のヒーローショーのための軍資金は残しておかなければならない。


「やっぱこっちのお酒……た、煙草も。いや、でもそれは……!」


 一瞬でなくなる気がする。

 基本、給料はほとんど飲み代と煙草代に消えていくサラだが、今回ばかりは大事に使いたい。


 あと、なにに使ったのか聞かれて「酒と煙草を買いました」はさすがにちょっとどうかと思う。


「にゃふふふーん。今日はお給料日~」


 札を握りしめていると、ご機嫌なメイド長さまの鼻歌が聞こえてきた。

 これはちょうどいいと、サラは先輩であるミアに給与の使い方を聞いてみる。


「ミア-、あんたこっちのお金なにに使ってんの?」

「にゃへ? 私ですか? そうですねぇ……お菓子買ったり、ジュース買ったり。後は貯金ですかねぇ」


 ミアの口から出てきた言葉に、サラはうへぇと目を細めた。


「ちょ、貯金? あんた、こっちのお金まで貯金してんの?」

「ええ、まぁ。もしかしたら高いもの欲しくなるかもしれませんし」


 今のところ不自由はしていないとミアは語る。しかし、浪費家のサラからすれば信じられないライフスタイルだ。


「かぁー、真面目だねぇ。人生いつおっ死んじまうか分かんないってのにさ。稼いだ金は次の給料日までには使い切るのが、賢い生き方ってもんだと思うけどねぇ」

「そ、それはどうなんでしょう……?」


 ソファーに両腕をかけるサラを、ミアは呆れた顔で見つめる。まぁそういう考え方もあながち間違いではないが、それだと後々苦労するのも事実だ。


「サラはなんか欲しいものないんです?」

「んー、欲しいものかぁ」


 欲しいものならいっぱいある。こっちのお酒に、こっちの煙草。シンケンジャーの変身セットだ。


「こっちの酒だろ? 煙草も。あと、シンケンジャーの変身セットも欲しいし」

「欲望の塊ですねほんと。お金すぐなくなっちゃいますよ?」


 親友の刹那的な生き方にミアは溜息を吐く。どちらかというとミアは貯金の残高を見てるだけで幸せになれるタイプなので、お金は使わなくとも素晴らしいものだという考えだ。


 片や、「これを使う前に死んじゃったらどうしよう?」と思うタイプのサラは、貯金箱にお金が残ってるのが少し怖い。


「じゃあ、今月分くらいはパーっと使ったらどうです? 正直、なにがいくらで買えるかもよく分かんないでしょう?」

「あー、そうそう。それもあるんだよ」


 こっちに来たばかりのミアがペットボトル飲料の安さに驚いたように、ミアたちの感覚からすれば何が高くて何が安いのかが分かりにくい。

 そもそも見たことも聞いたこともないものばかりの世界なので、まずは売り場に行ってみるのがいいんじゃないかとミアは思った。


「だったら、ヘンヤさんに頼んでスーパーに連れて行ってもらったらどうです? 私でも行ってるんですから、たぶん大丈夫ですよ」


 ミアの提案にサラの顔が輝く。

 こうしちゃいられねぇぜと、二人は主人のいる書斎へと急ぐのだった。



 ◆  ◆  ◆



「スーパーに行きたい?」


 偏也は、思わず聞き返した。


「ええ。サラがお給料で買い物したいって……ダメですかね?」


 目の前には、メイドが二人じっと顔を見つめてきている。

 勿論、偏也としてもスーパーくらいは連れて行ってあげたいが。


(サラくん大丈夫かな……?)


 サラの大きな竜の尻尾を見つめ、うーんと偏也は眉を寄せた。

 けれど、すぐにまぁいいかと思い直す。そもそもヒーローショーの約束はしてしまっているわけだし、いつまでもサラだけ外出禁止というわけにもいかない。


「いいよ。いろいろと初めてだろうし、みんなで行こうか」

「ほ、ほんとですか!?」


 偏也の返事にサラの顔が明るくなる。

 支度をするぞとミアに合図して、偏也は椅子から腰を上げた。


「っと……その前に」


 これだけは言っておかねばとサラの方を振り返る。


「サラくん、誰かから尻尾について聞かれたときのことだがね……」


 偏也から教わる言葉を、サラはきょとんとした顔で聞くのだった。



 ◆  ◆  ◆



「ふぁーすごい、なにここ」


 キラキラとした目でスーパーを見回すサラを、偏也とミアは微笑ましい顔で眺めていた。


 多少尻尾が目立っているが、お昼時を過ぎているからかあまり他の客はいない。


「こ、これ全部売り物なんですかっ?」

「そうだね。だいたいのものは売ってるかな」


 高級なブランドものなんかは置いていないが、日用雑貨ならなんでも揃う。それは、ミアたちからすればまさに「なんでもある」の極地だろう。


「サラくんは欲しいものとかあるのかい?」

「そうですねぇ。お酒とか煙草とか……」


 そこまで言って、サラはビクリと身を固まらせた。

 思わず口走ってしまったが、慌てて偏也に弁明する。


「ち、違うんです! そうじゃなくて! こ、こっちのお酒とか煙草ってどんなのなのかなーとか! そういうアレで! 別にいつも給料をそそぎ込んでいるわけでは!」

「わ、わかったから。落ち着いて」


 サラの剣幕に偏也も苦笑いしてしまう。

 まぁ、女の子的に恥ずかしいのだろうが、偏也は稼いだ金の使い方に文句はつけない。


「サラくんが自分で稼いだ賃金だ。好きなことに、好きなように使えばいい」

「す、すみません! ほんと気ぃ使わせて!」


 サラの反応に思わず偏也はくすりと笑う。ミアに比べるとクールなイメージのサラだったが、結構表情豊かな女の子だ。


「僕もお酒は好きだからね。美味しい銘柄でも見つけたら教えて欲しいな」

「ふぇ! わ、わかりました! お任せくださいっ!」


 そうと決まれば話は早い。酒類のコーナーに行こうと、偏也は天井にぶら下がるプレートを見渡した。

 先導する偏也をメイドたちは後ろからちょこちょこと追いかける。


「どうです? スーパーは?」

「……好き」


 なにやら的外れな返事をするサラに呆れながら、ミアは自分はなにを買いましょうかねぇと売り場を見回すのだった。

お読みいただきありがとうございます!

本日、漫画版「異世界堂のミア」2話前編が公開されております。よろしければ下のリンク先からどうぞ!

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