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竜の召使い(4)

キャラデザ公開の許可が下りましたので、ミアとサラのデザイン画をご紹介いたします。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

イラストレーターはおしおさんが担当してくださいました!二人とも可愛い!


「ちょ、ちょっと待って。たんま、ちょっと待って」


 血の気の引いた顔面を右手で押さえながら、サラは呆然と空を見上げた。

 夜空が広がっているはずの上空には、山か城かというような建物がそびえ立っていて、しかも見回せば似たようなものが周囲を取り囲んでいた。


「え? どういう……え?」


 疑問符を頭に思い浮かべながら、サラは不安そうな顔で偏也を見つめる。見つめられた偏也は、ただただ愉快そうに笑みを浮かべた。


「むふー! どうですサラ! これがヘンヤさんの世界ですよ!」

「え? なんであんたが得意げなの……っていうか、ごめん。ちょっと待って、整理させて」


 一度足下に目を落として、サラは深く息を吸い込んだ。

 多少面食らったが、考えてみればなんてことはない。少し自分たちの世界よりも建物が大きいだけ。そりゃあ文明も発達すれば、家も縦に延びるだろう。


「よし、落ち着いた……って、ぎゃああああああああッッ!!」


 もう大丈夫。そう思いサラが顔を上げた瞬間、夜道にしてはスピードを出した乗用車がサラの横を通り過ぎる。すれ違いざまにクラクションを鳴らされて、サラは悲鳴と共に偏也に飛びついた。


「なんだ、危ない奴だなぁ。こんなとこであんな飛ばして」

「ですねぇ」

「ぎゃおおおッ! 帰るッ! おうち帰るううッ!」


 涙目になったサラが、べしべしと尻尾を地面に叩きつけながら大きく口を開いた。途端、目映い炎がサラの口元から噴き上がり、今度は偏也がびくりと面食らう。


「うおおッ!? ちょ、サラさん!? お、落ち着いてッ!」

「ぎゃおおおんッ! ヘンヤさんの馬鹿ぁああッ!」


 サラの抱きつく力が強くなる。ぎゅうというよりは、みしりと音を立て始めた左腕に、偏也も焦ったようにサラを宥めた。


「お、折れ!? サラさん、離れてっ!」

「嫌だぁああッ! 置いてかないでぇええッ!」


 痛さで意識が遠のいていく偏也へ慌てて駆け寄りながら、ミアは「あーもう」と小心者の先輩を自分の主人から引き剥がすのだった。



 ◆  ◆  ◆



「あの、その……大変申し訳ございませんでした」


 震えながら頭を下げるサラを見て、偏也は困ったように頬を掻いた。

 あれから数分、泣きわめくサラをようやく宥めた一行は、比較的道幅が広い駐車場の前で足を止めていた。


「お願いです……く、クビだけはどうか」

「大丈夫だよ、落ち着いて。大丈夫だから」


 すがるように懇願してくるサラを、偏也は懸命に慰めていた。ミアを呼び、どういうことだと目で訴える。


「すみません。不良ぶってますけど、サラすごく恐がりで。慣れないとこで怖い目に会うと、泣きだしちゃうんですよ」

「ちょ! い、言うなよぉッ!」


 ミアの説明を聞いたサラが、顔を真っ赤にして抗議する。ちらちらと恥ずかしそうに偏也を見て、太い尻尾を左右に振った。

 けれど、それを聞いた偏也は大いに反省する。奇抜な出で立ちに、メイドにしては粗暴な言動。悪い子だとは思っていなかったが、どこかで丈夫そうな印象を受けていた。


「すまない、サラくん。不慣れな君を驚かそうとした僕のミスだ。……これで怖くないかな?」

「ふぇっ!? え、ええええッ!?」


 左手を差し出され、サラは声を上げて目を見開いた。偏也を見上げ、ミアに困惑したように目配せする。

 握っていいの? と目線で聞いてくるサラに、ミアはやれやれと息を吐いた。


「いや、握ればいいじゃないですか。さっき抱きついてたのに、なにを今更」

「ああああああッ!」


 そういえばと、サラの尻尾がミアの言葉に跳ね上がる。先ほどは迷惑をかけたことに謝るのに必死でそこまで頭が回っていなかったが、あれは端から見れば完全にアウトである。


「す、すみません! アタシ、ついッ!」

「ああ、もう! 大丈夫、大丈夫だから! なんならいつでも抱きついていいから!」


 いい加減、早く先に進みたい。メイド二人を前にしながら、偏也は弱ったように夜空の月を見上げるのだった。



 ◆  ◆  ◆



「そういえば、今日はどこ行くんですか?」

「ん? ああ、言っていなかったな。サラくんは初めてだし、行きつけの店がいいかなと思ってね」


 夜風に吹かれながら、一行は着々と目的地に近づいていた。

 ミアとサラ。特にミア以上に目立つ身体のサラを、ファミレスや大通りに連れ出すのは具合が悪い。

 まずは気心知れた店主の店に行こうかと、偏也は近所のお好み焼き屋を目指して歩いていた。


「お好み焼き屋に行こうかと思ってる」

「オコノミヤキ! なんですかその素敵すぎる響きは!」


 ミアが興奮したように鼻息を荒くした。むふーと気合いを入れるミアを、笑いながら偏也が見つめる。

 そんな二人の会話をどこか遠くに聞きながら、サラは腕に感じる暖かさにただただ疑問を浮かべていた。


(え? どういうこと? なんでヘンヤさんと腕組んで歩いてるのアタシ?)


 ちらりと確かめてみたが、それはもうがっしりと組んでいる。ミアと楽しそうに談笑する偏也の左腕を、まるで恋人のように両手で包んでいた。

 なぜ自分の胸は平たいんだと、そんなことを思いながら、サラは心臓の音を大きくさせる。気づかれやしないかと偏也の横顔を確認して、サラは惚けたように頬を染めた。


(やべ、めっちゃ嬉しい)


 自分ではなく後輩を見つめているのが多少残念ではあるが、でもその方がむしろいいとサラは思った。これで見つめられて話しでもされようものなら、自分は緊張で石になってしまうだろう。

 ぎゅっと握る力を少しだけ強くして、サラは嬉しさを噛みしめた。


(異世界とか建物とか、どうでもいいや)


 先ほどまでの恐怖が嘘のように霧散する。

 思えば、男の人の腕をこうして取るなど人生に於いて初めてだ。

 そう、初めてだ。なぜなら自分にはーー。


(ぎゃお……)


 安心するなと思いながら、サラは永遠に着かなければいいのにと異世界の神様に祈るのだった。



 ◆  ◆  ◆



「ヘンヤさん混ぜました! 焼いていいですか!? 焼いていいですか!?」

「あー、ちょっと待て。まずは豚肉をだな」


 熱された鉄板を前にしたサラは、きょろきょろと店の中を見回していた。

 少々油に汚れた店内は偏也の自室とはまるで違って、昔ながらの木造建築の中でサラは安心したように目を落とす。


「どうしたサラくん? 混ぜるの苦手かい?」

「え? あ、いえ! ちょっとびっくりして!」


 慌てて、サラが手元のボウルの中身を混ぜ始める。オコノミヤキといったか、どんな代物が出てくるか戦々恐々としていたが、出てきた料理はサラの想像の域を越えないモノだった。

 小麦粉に、卵。それに刻んだ野菜と薄い肉。目の前にはご丁寧に鉄板があり、なんとなくだが、初見のサラにも出来上がりが想像できる。


「ん? あー、まぁこの店ボロっちぃからな。客も少ないし」

「ふぇ!? い、いえ! そういうつもりじゃ!」


 偏也の愉快そうな声を聞いたサラが、驚いたように顔を上げた。


「ボロで悪かったな。たくっ、学生時代から生意気な奴だよまったく」


 訂正する前に、厳つい声がテーブルに近づく。サラが見上げれば、そこには2mに達しようかという大男が一同を見下ろしていた。

 筋骨隆々なガタイを見て、サラとミアがあんぐりと口を開ける。


「ははは! おっちゃんも相変わらず」


 偏也の挨拶に、男は無愛想に小さく頷いた。主人の無礼にヒヤヒヤとしたメイドたちだったが、どうやらご主人様はこの厳つい店主と顔なじみらしい。


「坊主が女の子連れて来るなんか初めてじゃねーか。二股か? はは、いいぞ。男はそうじゃなきゃいけねぇ。女房にゃ逃げられるがな」


 なんとも返しにくい冗談を飛ばしながら、男は小鉢を三つ盆から並べた。サービスだと言って、サイドメニューのポテトサラダを置いていく。

 去っていく店主の背中を見つめながら、ミアは「ほぇー」と尻尾を揺らした。


「ヘンヤさんの種族にもあんな大きな人いるんですね」

「まぁ、ありゃあ人間じゃないよな。オークかなんかだろ」


 適当なことを言いつつ、偏也は鉄板の熱し具合をグラスの水で確かめる。ピッピと散らした水がじゅわりと蒸発するのを見て、偏也はよしよしと頷いた。


「よーし焼くぞ。今晩はサラくんの歓迎会だからな、無礼講だ」

「やったー! ヘンヤさんの奢りですぅー!」


 ビールのジョッキを持ち上げる偏也の隣で、ミアがやったぜと両手を上げる。楽しそうな二人を眺めながら、サラは困惑した表情で目の前のジョッキを見つめた。


「えっと、アタシも飲んでいいんですか?」

「ん? 当然だろう? ……あ、もしかしてビールは苦手かね?」


 偏也のあっけらかんとした言葉に、サラは目を見開く。苦手どころかこれ以上ない大好物だが、主人の前で飲酒するメイドなど聞いたことがない。


「い、いや、好きですけど」

「ははは、なら問題ないな! ……しかしサラくんも雇ってよかった。賑やかなのはよいことだ」


 ここまでの道中にもびっくりしたが、心の中は彼のことでいっぱいだ。思っていた以上に破天荒で、感じていた以上に変わり者で、信じられないくらいに別世界の人間だった。

 けれど、想像以上にご主人様が素敵な顔で笑うものだからーー


「じゃあ、いただきます」


 まぁいいかと、サラはジョッキを持ち上げた。 

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