14話どんな時も心にうどんを忘れるな
今日もうどんをすする音が俺達の鼓膜を支配していた
「今日もうどん…」
マルタは悲しそうに表情を歪ませ
ポツリと呟いた…
「うるせー黙って食え…」
先日リルスさんから依頼を達成したお詫びにちゃんと5000ゴールドもらったのだが
今まで滞納していた家賃二ヶ月分で3000ゴールド
そして今月の家賃の事も考えるとマルタには悪いが食費を節約しなければやってけないのだ
「パフェ食べたい…」
とマルタはテーブルに顔を突っ伏しながら言う
「バカヤロー!そんなもん食える金なんてねーよ…」
「うー…パフェ食べたいよ…」
「無理なもんは無理だ」
「パフェ食べたい!食べたい!」
コイツ駄々子ね始めやがった…
これ以上拗ねられても面倒だ…
仕方無い
「わかった…ちょっと待ってろ」
「え!本当にやったぁ!」
俺はマルタにそう言い残し
下の階に行く
そしてじいさんから
あるものを借りてまた二階の部屋に戻る
「カゲル…パフェは?」
「あともう少しで完成だ…」
マルタはご機嫌そうに尻尾を振りながら
パフェの完成を待っている
…
…
…
よし出来た!
「ほーら出来たぞマルタ~」
「パーフェ♪パーフェ♪…え?」
マルタの前に差し出されたのは
パフェの容器に入った綺麗に盛り付けられたうどん
であった
俺が下の階でじいさんに借りてきたのは
ただのパフェの容器である
「ほーらお前の大好きな「うどんパフェ」だ。
たーんとお食べ」
「なんならお代わりもあるぞ」
我ながら名案だ
これで大人しくなるだろう…多分…
マルタは少し黙りこんでから…
「ウガァァ!こんなのパフェじゃないよ!」
と発狂したような声をあげた
「パフェだと思って食ってみろ
意外とパフェっぽいかもしんねーぞ」
「だってうどんじゃん!
うどん100%じゃん!」
「うどん120%目指してみろよ
フ●ーザ様を見習えバカヤロー」
「わけわかんないよ!…もういいよ! 食べれば良いんでしょ!食べれば!」
そう言って観念したようにズルズルとうどんをすすり始めた
それから10分程沈黙が流れた
特にコイツと話すことも無いし
気まずいともなんとも今更思わないしな
いや…待てよ…一つ聞きたいことがあったんだった
「そういやさ…お前なんで家出なんかしたんだ?」
「……別にカゲルには関係無いじゃん…」
ふてくされたように俺の質問に応答するマルタ
「でも今後一緒に暮らすにあたって隠し事とか
してたら信用問題に関わると思うんだよねぇ」
「……」
黙りこむマルタ
相当言いたくないのか…
「まぁ…無理に言わなくても…」
と俺が言いかけた所でマルタが口を開いた
「そうだよね…隠し事とか良くないよね…
わかったわ…話してあげる」
そう言って彼女は深呼吸してから
語り始める
「私ね…小さい頃からずっと友達がいなかったの…
正確には作らせてもらえなかった…」
「他にも外に中々出してもらえなかったり、色々な事を制限された生活をしてきたの」
「私は「デュークス家」の一人娘としてすごく過保護に育てられてきた」
デュークス家?
あー「デュークス」はマルタの姓か…
「なんでもかんでもパパが私の将来を決めちゃうのよ…結婚相手すら選ばしてもらえない…私の意見なんてどこにも無いのよ…」
「家に縛られた生活はもう嫌だ
そう思った私は家から抜け出しちゃったわけ」
「自分勝手な話でしょ?」
マルタは弱々しい笑みを浮かべながら
俺に語りかける
「なるほどねぇ…まぁ自分が正しいと思ってやったことならいいんじゃねーの」
「だがよ…マルタ…人間一回決意したことは曲げちゃいけねぇ…そう!一本の真っ白なうどんのようにな!」
ドヤ顔で話す俺をみて
マルタは
「バッカみたい…でもカゲルのそういう生き方には憧れてるよ」
とさっきの弱々しさを感じさせない
満面の笑みで言ったのだった
それをみてなんとなく安心している俺がいた
とりあえず一旦落ち着いたし…よし…今夜は晩飯を奮発してやるか
「よっしゃぁ!んじゃ今夜は奮発して
うどん鍋じゃぁぁぁぁ 」
「えーまたうどん…」
今日も日下家は平和だ