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帰らずのかぐや姫  作者: 若槻風亜
おわり
32/32

おわり 5


 倒れた相手の上に、勝者は腰を下ろしてふんぞり返る。その様に心痛の溜め息を吐くのは翁と嫗の2人。彼らの視線の先にいるのは、呵々大笑している愛娘と、ボロボロになりその下敷きにされてしまっている青年。ようやく落ち着き場所をみつけたのかと安心していた老父母の心など、勝利に酔う姫君は知る由もない。


「ばっかじゃないの、あの女」


 心底呆れきった呟きを吐き出し、赫陽は天井を仰ぐ。羅快は目を瞑って引きつった顔で沈黙した。否定が出来ないのだ。


「自分の天力をほぼ全部渡せるくらいあの男に惚れているくせに、何で勝っちゃうんだか」


 光典がかぐやの能力を使ったのを戦いの最中目撃した時、その方法こそすぐに思い至った赫陽だが、その理由はまるで理解出来なかった。天人には確かにその力を人に分け与える方法がある。自らの血液に能力を刻み、相手に飲ませる、というものだ。もちろん得た力は時間が経とうが消えない。かぐやが不思議がったのはそのせいで、赫陽たちに視線を送ってきたのは残っているかを確認するためだ。


 しかし、その方法を実際にやる者は少ない。何故ならこの方法は確実に相手に能力を与えるが、与えた分を回収することが出来ないからだ。それにも関わらずかぐやは光典に天力を与えた。しかも、暴走したかぐやを止められるように配慮したのか、かぐやに力の気配を残すのに必要な最小限を残して全て渡したらしい。戦いの後に彼女と改めて顔を合わせた赫陽と羅快はそのことをに衝撃を覚えた。今彼女を超人たらしめているのは、生まれつきの天力ではなく彼女が文字通り命をかけて得た鬼の力ということだ。


「それにあの男も馬鹿だね。他の奴らには〝勝てたら〟って言ってるのに、自分には〝倒せたら〟って言われているのにまるで気付いてない」


 その発言には羅快は苦笑を返す。あの場で「倒せたら」と言われたら「勝てたら」という意味で捉えてしまうのは仕方のないことだろう。ひとまずは放っておくつもりだが、果たして光典はいつ気が付くだろうか。倒す、が単純に転ばせることも含んでいることに。


「確かに傍から見ると呆れてしまいますが、男女の機微ですので、しばらく見守られてはいかがでしょうか? 姫様の力を得てしまった以上、光典殿の寿命も伸びたはずですから」


 天人から天人に能力を与えるだけであればただの譲渡だ。しかし光典は地上人。彼はかぐやの力を得るのと同時に、その長寿の恩恵も受けてしまっているはずである。


「父さまたちが生きている間に安心させたいから、あんまり長くかかるようになったらどっちもばらすよ」


 もう一度呆れたため息をつき、赫陽は手をひらひらとさせた。とりあえずしばらくの間見守ることに異論はないようだ。


「ほーんと、馬鹿な奴ら」


 ぽつりと呟いた言葉は、立ち上がって再戦を申し込む光典の声にかき消されてしまう。









高校時代、文芸部の部誌用に作成した「帰らずのかぐや姫」。

タイトル通り帰らなかったかぐや姫のお話です。


本来であれば典雅な生活をしているはずのかぐや姫を

こんな扱いしていいのかしらと思いつつも楽しく

書かせていただきました。


かぐやと光典がどうなるか。

赫陽や羅快が今後どうかぐやと生きていくか。

その辺りの諸々は、今のところはご覧くださった方々の

ご想像にお任せします、ということで。



最後までご覧いただきありがとうございました。


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