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帰らずのかぐや姫  作者: 若槻風亜
其の三
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其の三 3


 月は戦に満ちていた。大小様々な国々が、己の身を、己の国を、立てようとする者たちを先頭に戦火を広げ続けていた。かぐやはそのうちのひとつ、小国の王の子として生まれた。その国に、その両親の元に生まれてしまったことこそが、かぐやの不幸であった。


 天人たちは不思議な力を持っており、それを〝天力〟(あまつのちから)と呼ぶ。その力は大きく二種類に分けられる。ひとつは物体を動かしたり動けなくしたりするなどの特殊な作用を持つ外能力。もうひとつは純粋に力として作用する内能力。天人たちは皆これらふたつを併せ持つが、どちらかに偏っているのが通常だ。かぐやは外能力に偏っており、周囲に結界を張るという力があったため、幼いうちから父の護衛として近くに控えることが多かった。


 あの日、かぐやが違う〝かぐや〟になった日も同じく移動中の父の護衛をしていたのだ。しかし敵は多勢であり、追い詰められたかぐやと父は絶壁の下へと追い落とされてしまった。そしてその底で、かぐやは鬼の血肉を、骨すら残さず食らい、鬼の力を手に入れたのだ。


 その力を持って父と崖から這い上がり、国へと舞い戻った。


 それから一年としないうちに、戦は全て終結した。戦場は沈黙したのだ、ただひとりの、幼き鬼神の手によって。


 かぐやの父は月を制圧し、月の王として君臨した。かぐやはそれにあわせて月の姫となる。そうして戦乱の時代は終わり月に平穏は戻った。しかし不安はまだ残っている。かぐやだ。


 戦を終結させたのは、ただひとり、かぐやの力。つまりもしもかぐやが大きくなりはっきりとした自我が出来れば、月は瞬く間にかぐやの支配下に治まってしまう。もしくは、完全に破壊されてしまう。


 かぐやの両親は危惧した。両親のためにと懸命に戦場で戦った娘に、いつ殺されるかと疑心暗鬼となった。


 かぐやを殺すことは出来ない。力の差があることもだが、今他国が膝を屈するのはかぐやを恐れてこそ。かぐやが死ねばすぐにまた反旗を翻すだろう。だがかぐやをそばにも置いてはおけない。かぐやの両親は考え、考え、考えた。


 そして、行動に移した。


 かぐやを騙し、暗闇へ閉じ込め、力を封じ込め、体を小さくしてから、この地上へと落としたのだ。地上ならばいつでも呼び戻せると、そう考えて。


 それからかぐやはあの竹の姿をした檻の中で過ごすことになる。両親はそれでずっと封じ込めておけると思っていたらしい。


 しかし彼らは考え違いをしていた。確かにかぐやの力は下がったが、それも10年近くをかけて回復された。体を小さくするためにかけた呪いも、檻から抜け出して3ヶ月ほどで解呪がされ今では完全の状態で生活している。


 そして閉じ込められた10年の間に、彼女は知った。月の者が、両親が、自分に何をしたのか。


 そして今に至るまで、彼女は恨み続けている。月の者たちを。


 そして彼女は決めた。この地上で、優しい翁嫗とずっと一緒にいることを。あの暗闇から救い出してくれた彼らと共に在ることを。




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