青山日和が出来るまで 8
「『体は剣で出来ている……そう呟いた赤髪の青年は、世界の色を変えた。彼がこれから見るであろう、無限の剣で構築された大地に朱色の空の下、終わりの見えない自らの目指した道を示すように回り続ける歯車を一瞥し……』」
途中まで読んで、語る口を閉ざした。
夜も深まり、腹を満たした雛は案の定僕の自室で生活することとなり、母さんに出してもらった幼い頃世話になった絵本をベッドの上で読んであげていた。
しかしいつの間にか寝静まった雛は、あまりに無防備で邪気のない寝顔を僕に向けている。腹部までしか掛かっていなかった布団を肩まで覆うようにしてやり、傍にあるサイドボードに絵本を置く。
僕の腕を枕にした雛の寝顔を見つめる形を作る。昼間は可愛い印象の強かった雛ではあるが、こうして無邪気さを取っ払うと美人な部類に入るんだな、なんて魔が差す。
結局今日出会って覚えた言葉は、ひーくんのみ。絵本もどこまで集中して聞いていたのだろう、時折所在を確かめるように抱き着いてくるこの子は、どこから来てどこへ行くのだろう。
同じ人の子であり、これから先どうなっていくのか、何もかもが分からないのに環境だけは音を立てて変化して行く。彼女を中心に、僕の世界は色を変える。
もしもこの子が、僕の求めた都会と言う場所で生きていた存在ならば、色んな期待がゲシュタルト崩壊してしまう。僕らにないものを多く持つ憧れの場所、そこに言語すら不要な世界であるかもなんて可能性が現実に変わった時、僕は受け入れられるのだろうか。
或いは都会じゃこれが常用語なのかも知れない。行動一つで全てが伝わる、言葉を必要としない人種、それが都会と僕らの村との差異なのかも知れない。
けれどそれだけで全てを成せるとも思えないわけで。
言葉は大事だ。口にすることは力となる。
こうして話せるだけでも幸せ者だと思う僕には、身じろぎだけでコミニュケーションを成り立たせてしまう世界に行きたくないと思ってしまう。
世の中には言霊なんてものもある。言うを成す誠の力。力が願いに、願いが力に変わるそれは、僕が多分心の奥底から欲しい物。
存在するはずのないファンタジーな力だけれど。
僕が好む言葉にこうした変化をもたらせるのならば……と。
自虐的に笑って思いの丈を吹き飛ばし、眠りについた。




