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青山さん家 2  作者: 宇佐美 風音
19/21

青山日和が出来るまで 7

「ひーくん! ひーくん!」


呼ばれた試しも無ければ、思えば何故この呼称を選んだのかさえ定かじゃないけれど、(ひな)は帰って来た母さんに教えた言葉を連呼していた。


後ろからひょっこり姿を現す 日傘(ひがさ)は胸の前でパチパチと拍手をかまし。


「すごーい! もう言葉覚えてる雰囲気じゃーん!」


「あうあー! ひーくん!」


なんてやり取りを挟み、強く抱き合う。波長が合うのだろうか、それとも日傘が絡みやすいのか、仲良くなれそうな空気がそこにはあった。


「あんた、ひーくんって何?」


母は冷静に僕の耳元に囁きかける。僕だって良く分かってないんだから、問われたところで詳しくは言えないぞ。


ただ単純にそっちの方が覚えやすいかな、と言う逆転の発想だったと言うだけで、それ以上も以下もない。


「まぁ良いわ。それよりお父さん、買い出し組と合流して村を降りて行ったから」


僕の表情からじゃ答えは得られそうにないと判断したのか、話題を変えられた。


「何だ、もうそんな時期だったんだ」


村長が居なくても村は回る。回さなくてはならない、ゆえに一月に一度の買い出しに村長が居なくても住民は動く。


月の中頃、いつも大人たちが集まり買い出しのために村を、山を下って行く。今日はそんな日だったらしい。


すっかり忘れていたよ、頼むものはないから良かったものの……。


いつかは僕も、この村を降りた別世界へと足を踏み入れる機会が訪れるのだろうか。クリスマスを指折り数えて楽しみに待つ子供のように、これからも長いようで短い年月を過ごすのだろうか。


胸を刺すチクリとした痛みを払拭するように、僕も話題を逸らした。


「っと、そうだ。母さん、昔僕に読んでくれた絵本、あれってどこにある?」


「それなら私たちのベッドの下に……って、それはお父さんのエロ本の隠し場所だったわ」


「あのエロ親父……」


と言うか母さん、わざとだ。意図してバラしてる。そして把握されてる父さんのセキュリティの低さよ。


「まぁ後で出してあげるわよ。それよりご飯作るから」


「……あー」


忘れていた。雛に言葉を教えることに夢中で、すっかり食欲を忘却していた。雛もお腹が空いただろうに、申し訳ないことをしたな。


「ひーくん!」


そんなこともお構い無しに抱き着かれる。日傘と遊んでいたはずの雛に巻き付かれながら、せめてものお詫びに頭を撫でてやった。


満面の笑みでそれを受ける雛を見て、傍に駆け寄った日傘と同じ笑顔を浮かべた。

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