青山日和が出来るまで 4
熱心に説得した末に、一度は拒否された滞在。
けれど事情が事情なだけに、その後判断を保留にされて、村の中へと招くことに成功した。
全ての処遇は、村長に委ねられた形で幕を閉じて、この子を連れて両親の働く作りかけの須藤家へと足を向けた。
見るもの全てが未知のものなのか、建物や他の人々を見る度に目を輝かせてユラユラと僕にくっついている少女には、僕の羽織ものを取り敢えずの形で羽織ってもらった。
この時期寒いとは感じないけれど、流石に和服一枚では外に長居することは出来そうにない。
「あうおー……!」
母音しか話せないこの子は、洗濯物を干す家の住人に興味を示したのか、身体がそちらに傾いて行く。それを静止して傍に寄せる。
それを甘えて良いサインと勘違いしたのか、またあうあーとか言いながら抱き着く。人懐っこいなぁ、この子。
「雛ちゃん、どうなっちゃうんだろうね」
「残念だけど、追い出されちゃうかも知れないな。何であれうちの村の外の他人を拒絶する傾向にあるし、何とかこの村に居る意義みたいなのでもあれば話しは別だろうけどさ」
隠し立てするようなことなんてない我が村は、どこまでも村の外の住民に対して冷たい。長く続く掟ではあるものの、今回ばかりは疑問を抱かざるを得ない。
そして何より、一応村の外の人間である雛は今、ここで暮らし続けるための理由が足りていないこと。乗り越えるべき壁はあまりに高い。
「最悪お前も働くか? それで何とかなるとも思えんが……」
「あうー!」
腕も雄叫びも上げる雛よ、本当に僕の言葉理解してる?
と言うかこの子の名前、雛で統一されつつあるやん。何でやねん。
「住めるようになったら、言葉も教えてあげないとね!」
言葉……覚えるのか?
まぁ同じ人科だし、母音は言えてるから根気強く教え続ければ何とかなる……か?
うん、自信ねぇや。
なんてことをしている内に、僕らはやっと両親の下へ来た。屋根に登り釘を打ち付ける父、その下で木材を必要な長さに切って行く母と目が合う。
そのまま横にスライドして、雛とと目が合う。ニコッと笑う雛、苦笑いを浮かべる母。
「あんた達……ヤケに遅いと思ったら、お盛んなのねぇ……」
「母よ、何を勘違いしてやがる」
まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜってそうじゃなくてさ。
日傘との子じゃないし、間違いを冒したつもりもない。何よりこんな短時間で子供は出来ない。
妊娠五ヶ月でもうすぐ産まれるんじゃないかなと自慢していたヒューズ中佐みたいになってるからな、ホークアイ中尉に怒鳴られるタイプの発言だからね。
「五ヶ月じゃ子供は産まれませんから」
取り敢えず中尉の台詞をそっくりそのまま送る。ツナギ姿で腕を組み、器用にノコギリを脇に挟むようにする母は嘆息。
「日傘ちゃん、こいつのことよろしくね」
「任せといてよ日和ママン! 末永く爆発するね!」
「何で親公認のカップルが成立してんだよ、爆発しないから」
「後ろからざっくり?」
「来るなよ……行けよ……」
いや、このツッコミも大概おかしい。
「壁の外で見つけたんだよ。放ってもおけないから村長の審議待ちって形で中に入れたんだけどさ」
「そこはちゃんと外に出しなさいよ、つーかあんた本当にヤル気満々じゃない」
「もう会話のキャッチボール大事って言わせないでくれる?」
中も外も入れる気皆無だから、見ず知らずの子にパイルダーオンする気概は果たして持ってないから。
「それで? 壁の外が何だって?」
人の話し聞かない悪い子ばかりだなこの空間は。何なのさ、流行りなの?
お気に入りのコーデなの?
「廃材を燃やすための枝を拾いに行ったら、日和がエンカウントした雰囲気だよ!」
「成程、それでゲットだぜしたわけね」
村の外を草むらか何かと勘違いしてない?
いや合ってるけどさ、そんなファンタジーな世界観じゃないでしょ、この話し。さらに言えばこの説明二度目だからな。二度手間も甚だしい。
「村長が今居ないじゃない? 事情が事情だから、取り敢えず村の中に入ってもらったってことだよ」
「あんたも数奇な人生ねぇ……まさか女の子を拾うなんて。良い経験をしたわね」
言いつつ頭を撫でられるが、全世界的に見て女の子を拾ってしまう人ってどれくらい居るんだろう。僕くらいのものじゃない?
空から降ってくることなく、普通に外で生活してたっぽいし、雛は希少価値の塊だよ。
あとこれ以上頭を撫でないで。くすぐったいとかでなく、雛が真似して後頭部をガンガン叩いてるからさ、あうあーとか言いながら間違った方向で変化をもたらしてるからさ。
「まぁでも真面目な話し、うちとしては別に住むのは構わないわよ。ただ、仕事してる間一人になるじゃない? まずはそこを解決させましょ」
急に正論を放たれた。そうなんだよな、僕も日傘も大工である両親の仕事を生業としている以上、ほとんど家を開けている。
だからその間家に置いておくんじゃ外に居た頃と何ら変わらなくなるし、かと言っていきなり仕事を覚えさせるのもな……コミニュケーションすらままならないんだから、難しいよな。
「その件に関しては大丈夫だよ、日和ママン!」
と、妙案とばかりに雛並の笑みを浮かべる日傘。
流石にそこは当事者の一人、ちゃんと考えてはくれていたらしい。持つべきは友人と言うべきか。
「日和が面倒見れば良いんだよ! 家で! 一緒に!」
「待て待て待て待てコルァ」
最後が巻き舌付きになるが、気にせず止める。だからさ、僕仕事があるわけさ。
そうなると当事者の僕も日傘もその役割を担うにはちと部が悪いんだよ。それなのに、誰が、どこで、どうやって面倒を見るって?
僕が?
家で?
一緒に?
ホワイ?
「あぁ、良いわね。拾ったのが日和なら、その日和が面倒見るのは当然ね」
「いやいやいや、母よ。普通に同意してるけどさ、僕仕事があるわけじゃない?」
「だとしても、ここに居てオーケーか返事も分からないんでしょう? その状態で仕事覚えるわけにもいかないし、村長が戻って来るまでの間は日和が仕事休んでこの子を見てて上げるのがベストじゃない?」
むしろ、面倒を見るのが仕事と言わんばかりにまくし立てられ、思わず黙ってしまう。それでも仕事がさ、ままならないじゃない?
「幸い今はウチが居るし、人手は足りてる現場だから、忙しいスケジュールじゃないのも相まって日和の分もウチが出れば良い雰囲気だよ!」
まずい、これは外堀を埋められつつある。別に雛の面倒を見るのが嫌なわけじゃない、関わった以上女の子を放ってはおけないし。
だが、僕だけ働かないとなれば罪悪感とか迷惑が被られて来る。それを背にしたままってのは申し訳が無さすぎる。
「日傘ちゃんの言う通り、取り敢えずはその形で落ち着くべきじゃない? と言うかそうしろ」
最後に至っては強制かよ。逃げ場ないじゃん。
「おいおい、マジかよ……」
「あーうあー!」
期せずして。
僕は外で女の子を拾い、仕事を無くした挙句、ニートとなって自宅警備を命じられた。
何も知らない雛がより一層強い力で抱き着く中、僕の中の力が抜けて行くのを感じた。




