ある女の終わり
―帰りたかった。
勝手のわからぬ土地に連れてこられ、使命を果たすまで帰還は成らないことを知らされた。
そしてただひたすら過ぎ去る日々にすら脅えながら諾々と望みを叶えながら命長らえてきた。
「お前の役割は終わりだ。約束通り異界に戻るがよい―魂だけでも。」
ある日領主の一族の一人が私を屋敷に呼び出し、こう告げた。辺りは男に囲まれ、皆例外なく刃物を私に向けていた。
身を翻して逃げようとすれば、背中から切り伏せられ、地に伏した。
―帰りたかった。
生まれ故郷の夫、家族。そして何より・・・。懐かしい人々の顔がいくつも浮かび、瞼から熱い雫が垂れ、頬を伝い、血溜まりの中にぴちゃりと落ちる。
―憎い。
私を世界から引き剥がした男達が。
涙とともに感情が噴出する。
どうしてこんなに遭う。
悔しい、口惜しい、憎い、ニクイ!
「・・・てやる。」
彼女の小声を切りつけた男が聞き咎め、再び刀を抜く。
「待て。」
それを主の男が止めた。
「今までの貢献に免じて遺言くらいは言わせてから殺してやろう。」
そういうと彼女に言葉を投げかける。
「さっさと言え。家族への思慕か、郷愁か。それとも絶望か?」
酷薄な表情を変えず、冷えた眼差しを哀れな女へ向ける。
「・・・呪ってやる。」
「・・・何だと?」
「呪ってやる。」
小さくともはっきりとした呟き。しかし男は相変わらず表情一つ変えない。
「ならば私に殺される前に呪うべきだったな。」
男の言葉にひくり、と白い喉が動く。そして女の首が傾き、男の目線とかちあった。
―そこには怨嗟の炎が宿っていた。
「―呪ってやる。呪ってやる!お前も、いや、私を呼び寄せたお前達一族も!七代先まで祟り殺し、血を絶やしてやる!私をお前が殺したように、私もお前達を必ず殺して「切れ。」
―ザシュッ。
こうして己の縁者にも、異郷の者にもにも看取られず一人の女が死んだ。
人の生んだ歪みはやがて一つの一族にふりかかり、更に国にすら影を落とすとは誰も予想すらせずに。