プロローグ
去年の大晦日の前日のこと。
久しぶりに里帰りしていた玲菜は、家族で振り袖を見に行った。成人式まであと一年。しかし、県外の大学に通っていて年に一度しか規制しない玲菜は、今見に行かなければならなかった。
大箱通りには呉服屋さんが二軒ある。しかし、一軒は雰囲気がどうしても好きになれなかったので、もう一軒のほうに先に行くことにした。
傘を傘立てに置き、室内に入ると、白と黒でモダンに、しかし和風を忘れることなく統一された室内。窓からは、市街地にいるのを忘れるような、小さいものの手入れの行き届いた日本庭園が見える。振り袖が欲しいというと、店長さんに奥の和室に案内された。
和室の側面は一面棚になっていて、中には大量の着物が収納されている。
「どんなお色がお好みですか?」
そう聞かれ、玲菜は迷わず「赤とピンク以外」と答えた。
玲菜が赤とピンクを着たくないのには理由がある。彼女が幼稚園に行っているころ、祖母が買ってきた着物が赤だった。当時の玲菜は赤が嫌いで、どうしてもピンクが着たかったのに、赤い着物を正月のたびに何年も着続けなければならなかった。
その後、家族で写真館に行った時は、今度こそピンクを着てやろうと思っていたのに、店員さんに出された着物がまたも赤だった。しかも、色にこだわりないはずの母の着物が、なんとピンクだったのだ。
その後、ピンクの着物を着る夢は果たしたものの、出来れば赤い着物はもう着たくなかった。
その上、大学の先輩に成人式の話を聞いたところ、「ほとんど皆赤かピンクで、それらを買うと絶対に被る」と言われたのだ。卒業パーティーの際、黒を選んだら皆黒ばかりで全く目立たなかったという苦い思い出を持つ玲菜としては、周囲と同じ色は出来れば避けたかったのだ。
店長さんは、棚の中から見る見るうちに着物を並べて行く。
その中の一枚に、目が留まった。