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『美しすぎることがダルすぎる件について〜憧れてたヒロインになってみたら、攻略対象が全員モラル崩壊の勘違い男だったので塩顔モブ男子と逃亡します〜』

作者: 透子
掲載日:2026/07/22

連載も書いてます。 

そちらも、ぜひ☆↓

https://ncode.syosetu.com/n8799mm/

 ある日目を覚ましたらヒロインになっていた。

 そう、あれである。今流行りの異世界転生ってやつだ。

 昨日までOLで事務員(30歳独身、絶賛婚活中)だった私は仕事帰り、疲れを癒すためにお風呂で半身浴をしながら逆ハーレム物のWeb小説を読んでいた。

 内容はよくある話だ。一般市民に生まれたヒロイン・リリアが光魔法を発現させ、一気に聖女の身分に(しかも傾国の美少女。ご都合主義バンザイである)。教養を身につけるため王族貴族が通う学園へと入学し、そこで待ち受けるのは見目麗しい王太子殿下、公爵子息、騎士団長子息……。とにかく登場する男たちが婚約者の存在すら放り投げ、全員でリリアに愛を誓い、最後は「みんなで幸せになりましょう!」と全員で結ばれる爽快無双のモテ物語。

 読んでいる分には「安心して読めるファンタジー」ではあったが、最後が全員エンドなのは正直うけつけなかった。(1人選べよ!)

 そんなこんなで、風呂上がりに冷蔵庫で冷やしたビールを一気に3本空けた。しかし家計は苦しく、エアコン代をケチって猛暑の中で酔いに任せて寝てしまったのだ。……悲しいかな、アラサーOLの限界突破。見事な熱中症でドカンと逝ってしまったらしい。

 目覚めたときは流石に戸惑ったものの、前世の実家とは疎遠だったし、恋人も友人もいないので未練はゼロ。趣味で自分でも転生小説を書いていたこともあり、状況の理解は早かった。

 姿を確認しようと鏡を覗き込み、そこに映る絶世の美少女に数分だけ呆然として、あとはすんなり落ち着いた。

(……しかし、改めて見ると恐ろしいほどの美少女だな)

 金を溶かしたようにサラリと揺れる絹の髪。一 点のシミもない白く柔らかな肢体。瞳は海の輝きを纏った宝石のような青。まつ毛は金色に縁取られ、マスカラも塗っていないのにバサバサ。唇はなにもつけていないのにさくらんぼのように淡く色づいていて、華奢なのに出るところは出ている。

(男の欲望をそのままかき集めて煮詰めたような美少女っぷりだな!)

 内心で盛大にツッコミを入れつつ、現状を整理する。

 私には前世の記憶とリリアとしての記憶が両方ある。リリアは貧しい母子家庭で育った。母親は苦労を重ねたせいか頬がこけているが、元の面影からして過去は美女だったのだろう。父親が誰なのか尋ねてみると、母親は少し困ったような笑顔で「ごめんね、お父さんは……」と俯いてしまった。これ以上突っ込んではいけないやつだと即座に察し、話題を逸らす。

 そして現在、私にはすでに光魔法が発現し、王立学園への入学が決定している。

 聖女を生んだ母親には国から多大な援助が下り、これからの生活に困ることはない。置いていく母親の心配も解消され、私は一安心しながら1週間後に迫った学園生活に思いを馳せていた。

 ——そう、ここまでは本当によかったのだ。

「やあ、私の愛しい光の乙女。今日も君の髪は太陽のように煌めいているね」

 学園に入学して数日。廊下を歩いていた私の耳元で、甘ったるい声が囁かれた。

 振り返ると、銀髪をなびかせた超絶イケメン——王太子リカルド・オリオンが爽やかな笑みを浮かべて立ちふさがっていた。

(いや距離近い!! 吐息かかってるって!! パーソナルスペースって言葉知ってる!?)

「で、殿下……滅多なことをおっしゃるものではございません。殿下にはシルビア様という素晴らしい婚約者が……」

「彼女との婚約はただの政略だ。僕の心を本当に満たしてくれるのは、君だけだよ」

(バッカじゃないの!? 政治的責任から逃げるな!! シルビア様めちゃくちゃ綺麗で気品ある素敵な女性じゃん! なんで堂々と浮気男の顔してんの!?)

 ドン引きしながら後ずさりすると、今度はカチャリとメガネを掛け直す黒髪長髪の男——公爵子息カミルが滑り込んできた。

「リリア、私の理性を揺さぶる罪な女性だ。君の光魔法について一晩中語り合いたい。婚約者のエミリア? 彼女には私の高尚な話は理解できないからね」

(は?? エミリアちゃんドジっ子だけど一生懸命で超可愛いでしょーが! 自分の女を下げて私を持ち上げるな腹立つ!!)

「リリアーっ! 守護の任により俺が抱きかかえて移動してやる!」

 さらに後ろから赤髪脳筋の騎士団長子息クリスが笑顔で突撃してくる。お前の婚約者のクリスタちゃんが運動音痴で転びそうになってるのを無視してこっちに来るな!!

 顔はいい。全員、目の保養レベルで超絶イケメンだ。

 だが、全員婚約者がいるのに乗り換える気満々のモラル壊滅男たちだった。

 小説で読んでいる時は「王道のモテ展開」と受け流せたが、いざ当事者になって生で体験すると——ただただ気持ち悪いしムカつく!!

「もう無理無理無理!! うっとうしい!!」

 私は制服のスカートを翻し、猛ダッシュでその場を逃げ出した。

「……はぁ、はぁ。あいつら全員、光魔法で一回除菌されてしまえばいいのに」

 追撃を振り切り、学園の敷地の隅にある大きな木陰に飛び込んで、私は地面にペタリと座り込んだ。絶世の美少女の顔を般若のように歪ませながら愚痴をこぼす。

「それは豪快な聖女様だな」

「!?」

 頭上から降ってきた低い声に飛び起きると、大きな枝の上で前髪の長い男子生徒がダルそうにこちらを見下ろしていた。

 黒髪に黒目。どこか影のある涼しげな塩顔イケメンだ。

 記憶を掘り起こし、ハッと膝を打つ。彼こそが、周囲から「不吉な闇魔法の使い手」と気味がたがられている侯爵家嫡男、エリオス・ノービスだった。原作小説では一瞬名前が出ただけの完全なモブだ。

「あ……すみません、お邪魔でしたか」

「別に。……お前、噂の『奇跡の美少女』だろ。なんでそんな世の終わりみたいな顔してんだ」

 私は自分の頬を触った。

 彼は私の顔を見ても、鼻の下を伸ばすことも、キザなセリフを吐くこともない。ただ「なんだコイツ」という冷めた目をしている。

(普通だ……! 普通に人間として扱われている……!!)

「ちょっと聞いてくれますか!? 王太子殿下たちが毎日毎日しつこいんです! 婚約者を放置して私に迫ってきて本当に困ってるんですよ!」

 初対面だというのに、溜まりに溜まった愚痴が爆発した。

「……ぶっ」

 エリオスは吹き出した。前髪の隙間から覗く黒い瞳が、可笑しそうに揺れる。

「お前、あいつらの顔に騙されないのな。……まあ、座れよ。日陰なら貸してやる」

 それからというもの、私の放課後の定位置はエリオスの隣になった。

 エリオスはクールだが根が優しく、私が前世の知識で学園の厨房で作らせたパウンドケーキを旨そうに食べながら、静かに私の愚痴を聞いてくれた。

「私、あの婚約者の女の子たち(シルビア様、エミリア様、クリスタ様)と仲良くなりたいんです。男たちの無神経さに傷ついてて……見ていられない!」

「お前、聖女ってより世話焼きなおせっかいだな」

「一応聖女です! ……で、エリオス様、闇魔法でちょっと協力してくれませんか?」

「ハァ? 俺を巻き込むなよ」

 そう言いながらも、エリオスはしっかり協力してくれた。

 彼の闇魔法『影潜み』で王太子たちの待ち伏せを完全回避し、浮いた時間で私は3人の婚約者たちに直接アプローチをかけた。

「シルビア様! 美味しいパウンドケーキが焼けたのでお茶会しませんか? 王太子殿下? いえ、殿下はパーソナルスペースが狭くて苦手なのでお呼びしていません!」

「えっ……? 貴女、殿下を狙っているわけでは……?」

 誤解が解けるのは一瞬だった。

 彼女たちも男たちの身勝手さに深く傷ついていただけだったのだ。「無神経男の被害者同盟」として一気に意気投合し、私たちは放課後に秘密のお茶会を開く大親友になった。

 そして迎えた、学園の賑やかな夜会。

 しびれを切らした王太子リカルド、カミル、クリスが、大勢の生徒の前で私を取り囲んだ。

「リリア! 君を傷つけるあいつらとの婚約は破棄することにした! これで君は僕たちの——」

「お断りします!!!!」

 会場全体に響き渡る私の大声。イケメンたちの動きがピタリと止まる。

「殿下方、勘違いも甚だしいです! 自分の婚約者一人大切にできない方に、この国や領地が守れるわけがありません! 距離感はおかしいし、人の話は聞かないし、ぶっちゃけめちゃくちゃムカつきます!!」

「な……ッ!?」

 呆然とする王太子たち。その横で、シルビア様たちが「よく言った!」と言わんばかりに優雅に扇子を広げ、ニヤリと口元を緩めたのを私は見逃さなかった。

 大混乱の会場を置き去りにし、私はドレスの裾を少し持ち上げてスタスタと歩みを進める。

 向かったのは、会場の隅で壁に背を預け、呆れ顔で見守っていた黒髪の少年のもとだ。

「行きましょう、エリオス様!」

「……ハァ。お前、本当に後先考えねぇのな。明日から追手に追われるぞ」

「その時はエリオスの闇魔法で逃がしてね!」

「調子いいこと言うな。……ったく」

 口では文句を言いながらも、エリオスは私の手をキュッと力強く握り返してくれた。前髪の隙間から見えた彼の耳元が、ほんのり赤くなっている。

 男の欲望を詰めたようなこの美貌も、ただの「厄介ごとの種」だと思っていたけれど。

 この素直じゃない塩顔ヒーローが、ふとした時に「……綺麗だけどな、お前」とボソッと呟いてくれるなら——

(まあ、この顔に生まれてきたのも、悪くなかったかな!)

 王太子たちの間抜けな叫び声を背中に聞きながら、私は大好きな人の手を引いて、夜会の会場を爽快に抜け出したのだった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

もし「面白かった!」「もっと婚約者たちとのスカッとお茶会や、エリオスとのニヤニヤ展開が読みたい!」と思っていただけましたら、下部にある**【ブックマーク登録】や【評価(☆☆☆☆☆)】**を押していただけるとめちゃくちゃ励みになります!

こちらの短編をベースにした連載版を開始しました!

短編では書ききれなかったその後の展開を更新中です。

続きが気になった方は、ぜひ連載版もチェックしてみてください!↓

https://ncode.syosetu.com/n8799mm/

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