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9 取り戻せない日のメランコリー side葉月


「いや、今日はこれから彼女の家でテスト勉強するから、またの機会にさそって」


 中学からの友だちのマコトちゃんと遊びに行く途中響司くんと会った。

 よく晴れた日曜。響司くんに会えただけで幸せだったのに。



 マコトちゃんが響司くんも集まりに誘ったら、響司くんは笑顔で断って、行っちゃった。


 なんか、最近の響司くんはらしく(・・・)ない。


 マコトちゃんはぽかーんとして、遠ざかる背中を見ている。


「え、今の本当に当馬くん? 狐が化けているとかでなく?」

「間違いなく響司くんだよ」


 間違いないけど、響司くんじゃない別の人だと思いたい。


「幼馴染の葉月ちゃんが言うならそうか。私、当馬くんは葉月ちゃんにすごく優しかった記憶があるからさ、なんか意外というか、そっけなさすぎるというか」


「あはは……」


 マコトちゃんには、中学時代の響司くんがそう見えてたんだ。


 私も、そう思ってたよ。


 響司くんは、私にはすごく優しい。



 ──私のこと好きなんじゃないかって。




 だから、嘘を吐いて試した。


『沢くんのこと、好きになっちゃった。協力してくれないかな』


 

 私のこと好きなら、きっと言ってくれる。


「葉月のこと好きだから、協力できない」って。


 そしたら私は、響司くんからの告白を受け入れる。幼馴染じゃなくて、恋人として高校生活を送る……そんな未来を想像していた。


 けど、響司くんは「僕にできることなら協力するよ。がんばれ」って返してきた。




 ダブルデートでも、思い通りにはならなかった。

 響司くんにかわいいって言われたくて、頑張ってオシャレしたのに、「沢は人の服装をどうこう言わないと思うから、好きなの着たら?」だって。


 沢くんは「似合うね」って言ったけど、信用できない。

 沢くんの言葉って上辺だけにきこえる。


 似てるんだ。

 私のへたくそな演奏を、「上手だね」って褒めていたおじいちゃんたちの言葉に、似ている。


 そう言っておけば、その場が丸く収まるからとりあえず言ってるみたいな。



 そのデートで、華音ちゃんと出会った。


 私は、ひとめぼれの瞬間というのを初めて見た。


 響司くんの目は華音ちゃんに釘付け。


 かわいくて、髪がきれいで、高校生と思えないくらいスタイルがいい。

 

 ……私に勝ち目なんて、あるわけないじゃない。

 きっと私は、二人の恋のおじゃま虫。当て馬。そういうポジションだ。


 あの日から、響司くんと華音ちゃんは付き合い始めた。



 響司くんは私と二人きりになる状況を避けている。


 放課後の勉強会だって、華音ちゃんと二人きりで勉強するなんて聞いたから、なんとか四人での勉強会にしてもらった。


 沢くんが飲み物を買いにいくって言ったとき、響司くんは私の好みをよく知っているはずだから「任せるよ」って言った。


 響司くんが私の好きなものを買ってきてくれたら、華音ちゃんに私達の過ごしてきた時間をみせてあげられるはず。

 響司くんはあなたのことより、私のこと理解してくれてるのよって。


 華音ちゃんは「どれでもいいよ」って言ったから、きっと響司くん何も知らず華音ちゃんの苦手なもの買っちゃって、気まずくなるんだろうなってちょっと期待してた。


 なのに、



 響司くんは華音ちゃんの好きなものを買ってきた。


 華音ちゃんはほんの数日で、私よりも響司くんに近いところにいる。



 あんなうそ、つかなければよかった。

 素直に、好きって言えばよかった。

 そうしたら、響司くんの隣にいられたのに。



 華音ちゃんがすごく嫌な子だったら、「あれはうそだったの、私のこと好きって言ってほしいだけなの」って、響司くんに言えたのに。



 馬鹿だな、私。


 響司くんが他のクラスの人にからかわれたとき、反論していた華音ちゃんを思い出す。


「キョウジはね! おうちで、二人きりのときは、子犬ちゃんみたいに、すっごくかわいく、あまえてくるのヨ!!」


 そんな響司くん、知らない。

 十年以上そばにいたのに、知らない。

 華音ちゃん、ずるいよ。


 華音ちゃんには、私が知らない姿を見せているの?

 なんで、私じゃないの?


 想像したくない。


「葉月ちゃん、大丈夫? 今日はおでかけ中止にしてさ、話聞こうか。余計なお世話かもしれないけど、すごく辛そうに見えるから」


 マコトちゃんが心配そうに私の顔をのぞきこんでくる。


 こんなことお父さんやお母さんに話せるわけないし、同じ学校の子にも相談できない。


 マコトちゃんは他の人にバラすようなことしないだろうし。


「……うん。ごめんね、きいてくれる?」


 近くの公園に設置されたベンチに腰掛けて、響司くんに嘘を吐いた日からこれまでのこと、全部打ち明けた。


 時系列もなにもかもめちゃくちゃで、たぶんすごくわかりにくかったと思う。

 そんな私の懺悔みたいなことを、マコトちゃんは最後まで聞いてくれた。


「……そっかー。当馬くん、中学の時と変わってないな。律儀なんだねぇ」


 マコトちゃんは言う。


「冷たくなったんじゃなくて、葉月ちゃんとの約束を守ろうとしてるんだ。自分は下がって他の人を尊重するタイプだと思うし。なんか聞いてるとさ、沢くんと葉月ちゃんが話す機会を作るために動いてるように思ったんだけど」


「……うん」 


 沢くんと仲良くなれるように協力してってお願いしたのは私。

 だから響司くんはお願いしたとおりにしてるだけ。


「葉月ちゃんは、どうしたいの?」

「……わかんない。でも、嘘だった、って言ったら、どうなっちゃうかな。ほんとうは響司くんが好きだって言っても、華音ちゃんとつきあってるし……。もう、遅いよね」


 どんどんと、後悔の波が押し寄せてくる。


 そう、いまさらほんとのこと伝えたって、自己満足にすぎないよね。


 マコトちゃんはちょっと考えてから、人差し指をたてる。


「うーん。たとえばだけどね? 親の仕事の都合で、明日当馬くんがどこか遠い国に引っ越すことになったらどうする? つぎに会えるのは何年後かわからない。もう二度と会えないかもしれない」


 小さい頃からこれまで響司くんと過ごした時間を思い出す。


 嘘ついたまんま、私の本当の気持ち伝えないままで、もう二度と会えなくなる。

 

 響司くんの中で、『沢くんに一目惚れした葉月』のまま。

 でも、告白したら私は『友だちの恋人にアプローチする嫌な女』になっちゃう。


 どうすればいい?


 何度も、自分にといかける。



「…………ありがと、マコトちゃん。ちょっと、頭の中整理できた」

「そっか。少しは役に立てたみたいでよかった。悩んだときはいつでも相談してよ。私はだいたい実家の店にいるからさ。ご飯食べるついでにでも」


 マコトちゃんの家は古き良き食堂。

 かわいらしい看板わんことにゃんこもいるところだ。


「うん。そのときは、またきいてくれる?」

「もちろん」




 翌日から、私は響司くんと話す機会を探した。


 告白して付き合いたいなんて贅沢は言わない。

 せめて、嘘を吐いたことを謝りたい。


 けれど響司くんは昼休みいつも華音ちゃんと二人でいるし、それ以外の休み時間は沢くんと行動している。

 響司くんがピアノのレッスンに来たとき話せればいいけど、だいたいお父さんとピアノの話をしてるからタイミングがない。



 メッセージアプリで伝えればてっとり早いのはわかってるけど、文字で『ごめんね』だけ送るのってそんなの不誠実じゃない?


 うまくいかないままゴールデンウィークが終わって、気づけば五月も半ば。

 私ってこんなにいくじなしだったんだな。


 朝起きてメッセージアプリを開くと、通知に『明日は華音さんの誕生日です』と表示されている。


「……スタンプだけおくればいいよね」


 友だちの誕生日ってふだんならもっとお祝いしよーってなるけど、華音ちゃん相手だとそういう気が起きない。

 華音ちゃんと出会わなかったら、私が響司くんのとなりにいられたかもって、どうしても頭によぎっちゃうから。


「やな子だな、私」


 スマホをベッドに投げて、私はもう一度目を閉じた。

草凪マコトは過去作「くさなぎときつねの思い出ごはん」で活躍しています。

陰陽師の末裔で、人やあやかしの困りごとを聞いて解決する子です。


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