7 第三者の喧騒(ストレピトーゾ)
昼休みがもうすぐ終わる。
教室へ戻る途中、ざわついた廊下で、クラスメイトの横井が話しかけてきた。
「なあ当馬って、ほんとに阿部と付き合ってんの?」
横井の声は、日常会話にしてはボリュームが大きい。
まわりにいた生徒が何人か僕と華音を見る。
「俺なんてさぁ、彼女と登下校で腕組んで、チューまでしてんのよ。当馬は一緒に弁当食べるだけ。そんなん友だちじゃん」
なんて言いながら、彼女とのプリクラをびっしり貼ったスマホを見せてくる。
「幼児の恋人ごっこじゃあるまいし」
周囲の何人かが、くすっと笑う。
恋人ごっこ、か。
本当の事なのに、なんだか胸がざわつく。
「横井。世の中の恋人が全員、人前でそういうことするわけ……」
僕が言い終えるより先に、華音が吠えた。
「だまらっしゃーい!!」
びしっと、横井を指さす。
「キョウジはね! おうちで、二人きりのときは、子犬ちゃんみたいに、すっごくかわいく、あまえてくるのヨ!!」
廊下が、しん……と静まりかえった。
華音はかまわず続ける。
「あたしだけのWelpeを! ほかのひとに見せるなんて、もったいないでしょ!!」
「ちょっ、待って華音!」
華音は
「ほら、キョウジ。いいこいいこー」
なんて言いながら背伸びして、僕の頭をなではじめる。
横井は一瞬ぽかんとして、それから笑いをこらえながら、僕の肩を叩いた。
「……な、なんか、ごめんなー、人前ではかっこつけてたんだな。お、俺が野暮だったわ」
周囲からも含み笑いが聞こえてくる。
「え、当馬って家では子犬みたいなの?」
「真面目君かと思いきや、意外……」
違う。
違うけど……『家で二人きりのとき』という設定で言われてしまったから、違うと証明しようがない。
身長百八十五センチで子犬扱いされたのは初めてだ。
……犬に例えるなら、せめて大型犬にしてほしい。
放課後、二人になってあらためて会議する。
「クラスメイトにうたがわれるなら、サワと葉月さん、もっと変って思ってるね?」
「……かもしれないね」
いくらパフォーマンスでも、人前で抱きしめておはようのキスなんてできない。
かと言って嘘がバレた場合
なんで付き合うことにしたなんて嘘ついたの?
→もしかして響司くんって、私のこと好きだったの? なのに私が沢くんと仲良くなりたいって言ったからそんな嘘を?
→ごめんね、これからも友達でいようよ!
……うん。考えただけでも気まずい。
通っている音楽教室は葉月の家だから、学校で避けようと、絶対に顔を合わせることになる。
嘘をかくすために、どんどん新しい嘘を上塗りしていく。
嘘を吐きすぎて、何が本当だったかわからなくなりそうだ。
「キョウジ。スマホかして。いいことおもいついたよ」
「スマホ? いいけど」
スマホを渡すと、華音は僕の腕にくっついて、インカメラで写真を撮る。
その写真を待ち受けに設定した。
初期設定のままだった無地の背景から一変。
満面の笑みの華音と、油断した僕が写っている。
「うたぐるなら、しんじさせてみせよホトトギス! ってタイガーのノブナガが言ってたね」
「ホトトギス以外間違えてるよ」
「とにかく、うたがう人いたらこれみせればいいよ!」
華音はピースしながら自分のスマホでも同じように撮影して、待ち受けにする。
「いいっていうまで戻しちゃだめヨ。またうそだろっていわれたとき大変よ」
「……わかったよ。どうせ僕のスマホの待ち受けなんて誰も気にしないからいいか」
と思っていたら、帰ってからうっかり母さんにスマホを見られた。
「きゃーー! 響司ったら奥手だと思っていたら、こんなかわいい彼女がいたの!? なんて名前!? うちにつれてきなさい!」
「え、ちょ」
「丈二さーん! きてきて! 響司ったらねー」
「やめてくれ母さん!」
二人そろって、
「赤飯を炊かなきゃいけないな!」
「ケーキも買いましょう!」
なんて言い出したから恥ずかしくて仕方なかった。




