23 気楽《コモド》な存在 side葉月
中間テストも終わって解放されたから、日曜だし友だちと横浜で遊びたおしてきた。
うちのあたりはほぼ住宅街だし、駅の近くに店があっても基本観光客向け。
大きい駅行かないとなかなかチェーンの服飾店ないんだよね。
今日は夏物買えたし、最新バージョンのプリも撮れたし満足満足。
夕ごはんを食べていると、お父さんが楽しげに話しはじめた。
「聞いてくれ。響司くんが予選通過したんだよ!」
「へー。そうなんだ」
私は冷やし中華のハムを食べながら生返事する。
「あら。葉月ったら、淡白ね。もう少し喜んでもいいじゃない。響司くん寂しがるわよー? お友だちなのにおめでとうの一言ももらえないなんて」
お母さんはほほに手をあててため息をつく。
そりゃあ予選通過はおめでたいことなんだけど、響司くんはそれくらい当たり前にできるだろうなって思う。
私がどんなにがんばっても立てないところに、響司くんは普通に立っている。
やっぱりちょっと、くやしい。
「いや、寂しくはないかもしれないぞ。響司くんの彼女が聴きに来てたから。葉月たちと同じ学校なんだって? 小さい頃はウィーンの劇場近くに住んでいたって言うから、懐かしくて話が弾んじゃったよ。ぼくが留学してた頃に通っていたパン屋が、今もあるみたいで……」
「華音ちゃんが?」
箸を持つ手が止まった。
休日にわざわざコンクールの会場まで足を運ぶなんて。
華音ちゃん、本当に響司くんのこと好きなんだな。
そんなに甲斐甲斐しいなら、響司くんに選ばれるのも納得。
勝手にひがんで聴きにいかなくなった私と大違い。
「まー! 響司くん彼女が居たの? どんな子?」
「しっかりした子だったよ。それにクラシックやオペラが大好きみたいで。あんな子が応援してくれるんだから、響司くんの音色も変わるわけだよ」
響司くんと華音ちゃんの話で盛り上がる、お父さんとお母さん。
……なんだか、コンクール見に行かなかったのを遠回しに責められてるような気がしてくる。
そんなわけないのに。
これ以上話を聞いていたくなくて、残りを一気に食べてお皿をシンクに運ぶ。
「ごちそうさま」
「もういいの? スープのおかわりもあるのに」
「んー、ダイエット中だからいいや。お昼にキャラメルマキアートクリーム増しで飲んだんだよねー」
「それはダイエット中に飲むメニューじゃないだろう……」
お父さんのツッコミがいつも以上に尖っている。
部屋に戻って、スマホのメッセージアプリを開く。
お母さんに指摘されちゃったし、おめでとスタンプくらいは送っとこう。
『おめでとう』
十分くらい経ってから既読がついた。
『ありがとう』
これで会話終了。
短っ。
なにか、もっと他のことも送るべきだった?
でも華音ちゃんのこと考えたら、これ以上のやりとりはしないほうがいいのかも。
響司くんもたぶん、そう思ってるから短い返事しかしないんだ。
沢くんはなにしてんだろ。
ためしにスタンプを送ってみる。
『いま暇?』
『マンガ読んでるから忙しい』
おばかさんみたいなコメントがきた。
『つまりそれ暇じゃない』
『何言ってんだ、ダンクは人生のバイブルだぞ。一巻から最後まで一気読みするのがマスト』
湘南を舞台にした伝説のバスケマンガの名前が出てきた。
日曜にマンガ全巻一気読みするの、どう考えても暇じゃん。
ばかなの?
画面を見ながら笑っちゃう。
『そーだ。明日ヒマなら昼休みに体育館来いよ。シュートを教えてやろう』
『なにその上から目線』
『授業で役立つときが来るかもしれねーだろー』
『まあいいけど』
中身があるようでない会話がポンポン飛び交う。
沢くん相手だと気を遣わなくていいから楽だな。
いまはこの軽さがいい。
沈んでいた気分が、少しだけ浮上した。




