16 秘密《セグレート》の約束 side須直
カーテンの隙間から射し込む日差しで目がさめた。
スマホを見ると9:00と表示されている。
「やべ、遅刻……」
布団から跳ね起きて、Tシャツを脱ぎ捨て投げてあったワイシャツに袖を通したところで気づいた。
「あ、今日代休じゃん」
昨日体育祭だったから、今日は休み。部活動もなし。
「焦って損した」
冷蔵庫から牛乳を出していざ飲むぞ、ってところでアパートの外階段を上がる足音が聞こえてきた。
足音はうちの玄関前で止まる。
親父だ。
鍵を探す音が聞こえたから、こっちから鍵を開けた。
「親父、おけーり」
「おう。なんだサボりか?」
「ちげーし。代休」
「あー、昨日だったな、体育祭」
靴を脱ぎ、俺が飲もうとしていた牛乳を親父が飲み干す。
「あ! 俺の牛乳!」
「けっけっけっ。早いもん勝ちだ」
「クソ親父」
「そういうこと言うなら、土産に買ってきた弁当やらんぞー」
親父がビニール袋から、サービスエリア限定販売の弁当を取り出した。
カツがめっちゃうまいやつ。
「よっ、日本一のイケメン直之サマー」
「手のひらくるっくるすんなバカ息子。食う前に母さんに挨拶するぞ」
親父は電話機の隣に置かれた写真立てを指す。
親父は写真に手を合わせて
「今日も須直はアホだった」
なんてぬかす。
「うるせー」
親父が話を終えてから俺も軽く手を合わせる。
「また仮眠だけしに来た感じ?」
「おー、五時になったら青森まで配送行かなきゃならん。また何日かあける。悪いな、落ち着かなくて」
「寝過ごすなよー」
「今しがた起きたばっかのお前に言われたかねーわ。すごい寝癖だぞ」
親父は俺の頭を指しながら笑う。
「いや、これはあれだ。今流行りのセットだ」
「やっぱアホじゃねーか」
弁当を平らげて、親父は財布から万札を一枚出す。
「これ今週分の生活費な。無駄遣いすんなよ」
「おー、サンキュー」
俺はそれを財布にツッコんで、スニーカーをつっかける。
「ちょっと出てくる」
「おー、いってこい。怪我すんなよ」
親父は右手だけ上げて応えた。
今日は月曜。スーパーでパンが特売だ。
買いだめしとこう。
馴染みの店で買い物かごにパンを放り込んでいると、声をかけられた。
「あれ、沢くん?」
ふり返ると葉月ちゃんがいた。
手に新作クッキーを持っている。
「おっす」
「沢くん。そんなにパンばっか買って。おやつ?」
「いんや、一週間分の弁当と朝飯と夕飯」
形だけの恋人だから、日常会話となんにもかわらないやり取りだ。
葉月ちゃんは俺のさげるカゴをのぞきこんで、怪訝な顔をしている。
「…………三食ぜんぶ菓子パンなの?」
「お湯沸かさなくても食えるからカップ麺よりタイパいいと思わね?」
「えっと……おうちのひとに頼んで、せめておかず一品くらいは作ってもらったら?」
ものすごく言いにくそうに聞いてくる。
「頼むも何も、親父は長距離ドライバーだからほとんど家にいねーもん」
コロッケパン、カレーパン、あんぱん、やきそばパン、ホットドッグ、ピザパン。
いちおうコロッケはじゃがいもだし実質野菜だろ。うん。
「んじゃな、俺もう行くわ。また明日、学校でな」
「あ、うん」
会計をすませて、両手に袋を持って家路につく。
天気いいなぁ。
空を見上げると、真っ青な空に飛行機雲が伸びていく。
「沢くん、待って」
葉月ちゃんが追ってきた。
「え、なにかあったか?」
「あのさ。今週は、お弁当のおかず私が作ろうか。一応、まわりにそう見せる必要があるでしょ」
予想外の提案をされたぞ。
「形だけなんだから、そんな無理しなくてもよくね?」
「いい? 作るメリットがあるの。明日から四人でお昼を食べる。私は手作り料理を持っていく。多すぎるからみんなで分けよってことにして、響司くんも食べてくれるかもしれない」
葉月ちゃん、したたかだな。
「あー、はいはい。俺は毒見役ね」
「見もしないうちから毒って言わないでよ!」
避ける間もなくグーパンが飛んできた。
親父がここにいたら絶対、アホって言われただろう。




