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15 形だけのデュオ side葉月

 体育祭の昼休み。

 私は沢くんに誘われて、校舎裏の階段でお弁当を広げていた。


 沢くんはスーパーの半額シールがついたホットドッグにかぶりつき、自販機で買ってきた牛乳にストローをさす。


「で、さっきの話なんだけど」


 軽い調子のまま切り出してくる。


「なんで私なの?」


 私はさっきから感じていたことを聞いた。


「たぶん沢くん、私のこと友だちくらいにしか思ってないでしょう? なんで一週間お試しで付き合おうなんて言ったの?」


 一瞬だけ、沢くんの手が止まる。

 けれどすぐに、いつもの調子で肩をすくめた。


「案外疑り深いんだな。これは葉月ちゃんのための提案でもある」



 沢くんは少しだけ声のトーンを落とした。


「葉月ちゃん、響司のこと好きだろ?」

「……っ!」


 なんで、ばれてるの?

 息が詰まった。

 否定も肯定も言葉にならない。


「今のままだとさ、やりにくいだろ」


 沢くんは飲み干した牛乳パックを吹いてふくらませて、空を見る。

 

「葉月ちゃんは、これまで通りにしてたらいい。俺は響司の友だちで、阿部の幼馴染。葉月ちゃんは俺の彼女って肩書きで四人でいるなら、変に見えないだろ」


 さらっと言う。

 あまりにも自然で、まるでそれが一番合理的な選択みたいに。


「……そんなことして、沢くんになんのメリットがあるの?」


 沢くんは少しだけ目を細めた。


「別に。なんか、……見てるのしんどい」


 本当に?

 本当の事を言っているとは思えない。


 ここにいるのは、みんなの前にいる明るく素直な沢くんじゃなかった。


 まるで、罰を受けてる人みたいな顔をしている。


 嘘の恋人になることで、なにか沢くんが得をするの?


 わからない。

 今の私にはわからないけど、知りたいと思った。


「……沢くんってスナオって名前なのに、思ってたよりひねくれてるね」

「そっちも、みんなの前にいるときと俺の前じゃ別人じゃね?」

「そんなことないもん」


 沢くんとの会話を中断して、お弁当の続きを食べる。

 

 お母さんてば、山形のおばあちゃんが送ってきたからってキュウリ入れすぎじゃない?

 おかずの器の半分を緑色が占めてるんだけど。


 ちらっと沢くんを見ると、パンを食べ終えてラップをクシャクシャに丸めている。

 他に何か食べる様子はない。


「沢くんパン一個で足りるの? ちゃんと野菜やおかずも食べなよ」


「野菜ぃ? 惣菜買うとプラゴミ出るから、仕分けめんどくせーじゃん」


 もしかしていっつもパンだけ?

 私でも、そんなちょっとじゃ足りないよ。


「……これどうぞ。うち、おばあちゃんが農家やってて、この時期野菜が有り余ってるの。全部食べたら太っちゃうし、手伝ってよ」


 そう言って、弁当のおかずを差し出す。


 沢くんは「……ふーん」と気のない返事をする。

 でも。


「じゃ、一個だけもらうわ」


 そう言って、あさ漬けをひとつ、ひょいとつまんだ。


「しょっぱ」

「どうせこのあとバトンリレーで汗かくでしょ。ちょうどいいじゃない」

「塩対応すぎね?」


 そんな憎まれ口を叩き合いながら、私たちは一週間限定で、形だけの恋人になった。

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