1 弾けない序曲 ☆漫画挿絵あり
「私、沢くんのこと好きになっちゃったんだ。響司くん、沢くんと仲いいんでしょ。協力してくれないかな」
その一言で、僕、当馬響司は告白する機会もないまま失恋した。
恋愛相談してきたのは、吉田葉月。四歳のときからの幼馴染だ。
僕が通う吉田音楽教室の先生の娘。
人懐っこくて、誰に対しても丁寧に接するところに惹かれていた。
このとき、『君のこと好きだから、協力できない』と勇気を出して言えたなら、未来は変わっただろうか。
いいや、たらればを言っているから僕は選ばれなかったんだ。
振られたら友達ですらいられないんじゃないか、そう考えると足がすくんで、踏み出せなかった。
それに────高校に入ってからできた友人、沢須直。
明るくて、僕のような口下手な人間にもためらいなく声をかけてくれる元気な男。
昨夜、沢からもメッセージで相談されていた。
「響司の幼馴染の葉月ちゃん、すごく良い子だな。俺、好きになっちゃった。葉月ちゃんってどんな男が好みなのか知ってるか?」
『僕も葉月が好きなんだ』と口に出したら沢との友情も終わる。
僕の気持ちは、二人の恋路の枷でしかない。
だから
「そっか。僕にできることなら力を貸すから、がんばれ」
精いっぱいの、下手くそな笑顔をつくるしかなかった。
告白しても叶わない恋なら、最初から言わない。
なかったことにしよう。
気づかれないように忘れよう。
それがせめてもの、矜持だった。




