第五話:怪異のいろは
歪が物騒なことを言い出した。ていうか、ぶっ飛ばせるものなのか?僕の知っている創作上の怪異だと、物理的な攻撃は効かないものだとされているけど……。
「確かに歪くんはそっちの方が早いだろうけど、私は憑物の特性上ちゃんと見極めないといけないから面倒なの」
「あ、その憑物ってなんですか……?」
さっきは聞き流していたが、僕の知っているものとは意味が異なっていそうだ。
「怪異の残滓みたいなものだよ。ほら、君のロケットもそう」
あのロケットが?正直なところ、記念品感覚で拾ってきていたから、物自体は大したことないと思っていたのだけど。
「怪異の持つ異常が少し残っているから、これを媒介として怪異に干渉することができるの。歪くんは大抵これで怪異を無理やり祓ってる」
「回りくどいのは嫌いなンだよ」
言いながら、歪は頭を掻く。見た目に違わずストレートで力任せな方法を取っているんだろう。愚直が正しいときもあるが、もう少し手段を考えてほしいものだ。僕を屋上で捕まえたときも、胸ぐらを掴む必要はなかっただろうし。
「でも、そうしたら憑物は落ちないじゃないの。いつもカバーストーリーを流布してるのは」
「はいはい、わぁってンよ」
「どういうことですか?」
やはり力任せはよくないということだろうか。
「歪くんのやり方だと無理やり怪異を消すから、残滓である憑物まで消えちゃうの。そうすると怪異にまつわる噂は最初からなかったみたいに消えるんだけど、消えた違和感は残るんだよね。それで違和感を覚えた誰かが思い出そうとして、怪異が復活しちゃうことがあるの。それを防ぐために、嘘のおまじないが流行ってたけどつまんないから忘れてたことにする、みたいな感じでカバーストーリーを流してるんだ」
じゃあやっぱり、歪のやり方は百害あって一利なしのような。
「まあ、実際仕方ないこともあるんだけどね。噂が広がりすぎて嘘で塗りつぶせなくなったりしたら、強硬手段を取るしかないし。一応、正しい手順を踏めばそういう面倒なこともなく祓えるんだけど、そんなのなかなかできないもん」
「正しい手順っていうのは……僕が怪人Aに質問し返したみたいなことですか?」
「そう!あれって本当にすごいんだよ、何か心当たりがあったの?」
「別に、そういうわけじゃないんですけど」
あれは本当にムカついたがゆえのヤケクソで、だからそれが功を奏するなんて微塵も思っていなかった。
「なおさらすごいよ!それなら、論くんにはワーカーになってもらおうかな」
「どっちみち最初から決めてたんだろ?まァ俺も反対はしねーけどよ」
「歪くんうるさい。どう、やってみない?」月光のような笑顔で毒島先輩は問うてくる。
「やります!」
と二つ返事をしたところに、チャイムが鳴り響いた。
「……みなさん、お疲れさまでした。帰り道に気を付けて、気を付けて帰りましょう」
下校の合図だ。いつもはこの時間まで残ることがないから初めて聞いた。時計を見れば既に18時。夕日が窓から差し込んでいる。
「帰るかァ」
「じゃあ、続きはまた明日だね。送って行こうか?」
「あ、や、大丈夫です。チャリなんで」焦って断ってしまう。
しかし本当は徒歩の距離であって、自転車なんて乗ってきていない。胸がずくりと痛んだ気がしたのは、きっと先輩の優しさに嘘をついた罪悪感だろう。
結局、下駄箱の前で別れて、僕は自転車置き場のところに行くフリをしてやり過ごしていた。二人は同じ電車を使っているらしく、肩を揃えて帰っていった。もしかして、という考えが脳裏をよぎって、しかし振り払った。そんな邪推はどうにもならない。ちょうど家に帰るのに必要なくらいの時間を自転車置き場で費やしてから、改めて帰途に着いた。
***
ベッドに潜り込んで考える。怪異対策委員会、か。人の噂を元にして生まれた怪異を、祓い消す委員会。ワーカーというのがどんな役職なのかわからないまま引き受けてしまったが、名前から察するに十中八九実働部隊――今日話していたように、噂を流したり怪異と戦ったりするのだろう。後者はもちろん、前者にも自信はない。というのも、僕はクラスで影が薄い方で、怪人Aの噂を知ったのも近くの席で話していたのが耳に入ってきたからなのだ(決して盗み聞きをしていたわけではない)。
そんな自分に噂の流布なんてできるのだろうか。そもそもまともに話しかけることができるのだろうか。いずれにしろ、明日詳しい話を聞いてみてからだ。不安を期待を胸に、僕は目を閉じた。
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