第三話:此処は何処、あなた達は誰?
僕がドアを開けた瞬間、襲い掛かってきたのはヤンキーな彼の睨み付けでもなければ怒鳴り声でもなく、頭部への小さな衝撃だった。
「痛っ!」
頭に何か落ちてきたのだ。何か小さいボールのような、大量に降ってきたそれらは跳ねて部屋を転がり回る。これは……スーパーボール?
「引っかかったなァ!……あ、論?!」
ヤンキーな彼が僕を指差して笑ったかと思いきや目を丸くした。まるで僕が来たことが意外であるかのように。自分で呼んだのに。
「くっそ、断理を引っかけたかったんだけどな。まあいいや、よく来たな論。偉いぞォ~」
いきなり出鼻をくじかれたが、目的はただ一つ。僕と、毒島先輩への脅迫をやめてもらうこと。
「歪くん、まさか……」
後ろから彼女の引いたような声が聞こえてくる。あれ、もしかして二人は脅す人と脅される人の関係ではなく、知り合いなのか?
「あァ、違ェよ。昨日のアレの件で呼んだんだ」
歪と呼ばれたそのヤンキーはバツが悪そうに頭を掻いている。仲も悪くはなさそうに見える。もしかして、僕は無意味に先走ってしまったのでは……?
二度も出鼻をくじかれてしまっては、もはや僕の顔はナンのごとき平らさになっていることだろう。あるいは仮面のように滑らかだろう。そう、あの怪人Aの着けていた仮面のように。
「そうだ、あの……!」
何故僕を怪人Aだと思ったのか?よく考えれば意味がわからない。怪人Aの大きな特徴はあの仮面と英国紳士のような姿、何より影を固めたような体で、一方僕はどこからどう見てもつまらない学生そのものだった。着ていたのも制服だったし。
それにくわえて、あの状況でいちゃもんをつけたいなら僕を怪人A呼ばわりする必要はない。ただ、「ナニ見てくれちゃってんの?」とか宣うだけでいいのだ。それだけで僕は十分に怖がり、そして貯金残高とこれからの学生生活に想いを馳せたことだろう。
最近流行っているから言い訳に使った、と言えなくもないけど、それならそれでロケットを差し出した途端に追及が止まったのも不可解だ。結局、あれを取り上げられることもなかったし。
「待て、質問すんのは俺だ」
「昨日、あそこで何があったか教えてもらおうじゃねえか」
またしてもあの睨み。ヘビにそうされたカエルのごとく、僕は縮こまっておとなしく答えるしかなくなる。
「なんとなく、屋上へ行こうと思ったんです。別に何か、悩みがあったわけじゃないですけど。高いところから見下ろしてみたいと思って」
「どぉでもいいよ、お前の心情なんか」
ヤンキーに制される。確かにまあ、関係なかったかもしれないけど。どうでもいい呼ばわりはあんまりじゃなかろうか。
「そんなことないよ、出現条件に関わってるかもしれないでしょ?」
毒島先輩が助け舟を出してくれる。正直、今日は一方的に攻撃されるだけだと思っていたので、味方してもらえるのは心強い。
「すみません……。それで、屋上でぼんやりしてたんです。そしたらいきなり」
「あいつが現れた、と?」
「はい、それで」
「なんて質問されたんだ?」
すごく遮ってくる人だ。本当に僕の話を聞く気があるのだろうか……。
「生きる意味とは、って……」
「珍しいね。最近の傾向からすると」
毒島先輩が可愛らしく首を傾げる。最近の傾向?
「お前はなんて答えたんだ?」
歪(一応、ネクタイの色を見る限り先輩)は相も変わらずこちらに圧力をかけ続ける。そんなことをしなくても洗いざらい話すのに。
「逆に質問したんです。お前はなんなんだよ、って」
「ふうン……」
一転、睨みつけが尊敬したような眼差しになる。ヤンキーによくある、無茶をしたやつをリスペクトするとかそんなような視線。
「それで、奴がぶるぶる震え出したと思ったら急に強い風が吹いて、気付いたらいなくなってたんです」
「で、あのロケットだけが残ったのか」
「そうです」
「ロケット?」
毒島先輩がそう尋ねる。そうだ、毒島先輩はまだ知らなかった。胸ポケットから取り出したそれを、そっと手渡す。
「へえ、いいロケットだね。大事に扱われてきたみたい」
毒島先輩はその大きくてくりくりした目を輝かせて矯めつ眇めつロケットを観察する。こうしているとまるで小動物みたいだ。ヒマワリの種を山で与えられたハムスターとか、そんな感じの。
「ありがとう。返すね」
何気なく差し出されたその手と僕の手が触れあって、思わず硬直してしまう。いい匂いもするし、なんだかいけないことをしている気分になり、慌てて胸ポケットに仕舞いなおした。
「憑物が落ちてるってことはちゃんと手順に則って祓えたんだね」
「質問返しなんて正解、誰にでも思いつきそうなもんだけどなァ」
毒島先輩が満足げに微笑むかたわら、ヤンキーの方は腑に落ちないといった表情だ。
ていうか。
「なんで僕を怪人Aだと思ったんですか?」
ずっとタイミングを逃していた質問。するならここだろう。
「そらお前、屋上に反応があって消えたと思ったらお前がいたから変質したと思ったンだよ」
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