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小さな師匠

「もういいにぇ、一旦やめるにぇ」

「……っ!」


 ディートリッヒに乗りながら浄化魔法を練習し始めて数時間。ずっとされるがままに私に浄化魔法を掛けられてたカルナにそう言われて集中力が完全に途切れた。


「ッはぁ……はぁ……」

「なるほどにぇ……」

「……」


 人形だから当たり前だけど、カルナの縫い付けられたボタンの瞳から感情は伺えないけど声色で何となくどう思われてるのかが伝わってくる。


 ――絶対に浄化するって言ったのに、私はまた……。


「聖女候補って言ってたにぇ?」

「……うん」

「と言う事は学園の生徒にぇ? 教師のレベルも随分と落ちた物にぇ」


 カルナの言葉に乗せられた深い失望に胸を締め付けられて、自分でも何を言ってるのか分からないまま、とにかくこれ以上落胆されたくない一心で洪水の様に言葉が口から溢れ出る。


「学園の先生達は凄いんだよ、同級生も……私が才能無いだけで! でも頑張るから、絶対に、絶対にちゃんと浄化できるように――」

「無理にぇ」


 出会ったばかりなのに、私カルナにももう見放されちゃったんだ……。


「やっぱりこの愚物は滅却するべきでしたね」

「ちょ、やめるにぇ!?」

「……サイラス君、やめて」


 ディートリッヒに乗った私達を扇動するのを止めて、傍に寄って何か禍々しいオーラを纏った魔力を手に込め始めたサイラス君からカルナを抱きかかえて守る。


「ですが、エリス様を侮辱――」

「私が出来損ないなのはカルナのせいじゃないから……」

「……お前達は何を言ってるにぇ? そんな事言ってないにぇ」


 ……え??


「学園の失墜にも驚いたにぇけど、最近の若者はキレやすすぎて怖いにぇ。我が現役だった頃は――」

「愚――カルナ、昔話は良いので私達にも分かる様に先程の発言の弁明をしてください。納得できない場合は……」

「勝手に消滅させたらだめだよ、サイラス君」

「ぐっ……何を説明して欲しいのか分からないにぇ。学園の教師のレベルが落ちてがっかりしたのと、エリスの浄化魔法じゃ一生我を浄化できないって言っただけにぇ」


 改めて言い直されると流石に傷付くな……。


「貴様――」

「大体なんで聖属性じゃなくて、光属性の浄化魔法なんて使ってるにぇ?」

「「……え??」」

「火属性しか使えない魔法使いが無理やり水魔法を使おうとしてるみたいなものにぇ。我が少しむず痒いと思える程度には浄化魔法が発動してただけで奇跡にぇ」


 ちょっと待って、カルナが言い出した事に理解が全く追いつかない。


「それこそ血反吐を吐くような努力をしてなかったら無理なはずにぇ。生徒をそこまで追い詰めた時点で今の学園の程度が知れるにぇ」

「あの……それじゃあ、私は一生浄化魔法を使えないのか、な?」

「光属性の浄化魔法はさっき言ったみたいに難しいにぇ」

「そっか……」


 何も言わずに、サイラス君がまた魔力を掌に込めながら腕を上げる。


「その手を降ろすにぇ!? 最近の若者の情緒は本当に意味が分からないにぇ、聖属性の浄化魔法を覚えればいいだけにぇ!!」


 聖属性の浄化魔法……それを覚えられれば、私でも――。


「嘘は付いていないんですね?」

「なんでこんな事で嘘を付かないといけないにぇ……()――サイラス、なんか適当な呪物持ってないにぇ?」


 ば……?


「……今のエリス様の練習相手はあなたで十分でしょう」

「舐めるなにぇ! エリス、我が痒く感じたって事は光属性の浄化魔法でも多分低級な霊は浄化出来てたにぇ?」

「え? う、うん」

「そこまで別属性の魔法を習熟出来たなら、聖属性の浄化魔法を習得するのにはそんなに時間は掛からないと思うにぇ。それでも、一から聖属性の浄化魔法を覚え直すなら我は今のエリスには荷が重いにぇ。ちゃんと浄化できてるのを確認できるものからこつこつ練習するべきにぇ」

「そ、そうだよね!? 昨日も廃教会で急にリッチ相手に練習しようってなってたけど、やっぱり練習するなら普通は低級霊からだよね!?」

「何当たり前の事を言ってるにぇ……」


 呆れたようにそう言ったカルナと顔を見合わせてから、二人してサイラス君の方を見るとさっと視線を逸らされた。

 

「……あの時は気分が優れなかった様子でしたが、エリス様ならリッチ程度なら低級霊も同然です」

「サイラス君、期待してくれるのは嬉しいけどそれは流石にないよ!? リッチって、普通に上級の霊で聖女候補じゃなくてちゃんとした聖女でも討伐が難しいんだからね!?」

「ふふんにぇ」


 なんでカルナがご満悦なのか分からないけど、これでサイラス君が少しだけ認識を改めてくれたら嬉しいな。


「ぐっ……でしたら、そうですね……今手元にある低級霊由来の呪物ですと――」


 サイラス君が腰に留めてた収納鞄を外して中身を確認し始めた。


「バンシーの遺喉(いこう)、フェイズ・スペクターの呪杖、死霊を喰らったアビス・シード変異種の魔核――」

「なんて物持ってるにぇ!? 絶対に出すなにぇ!! エリス、取り敢えず聖属性の浄化魔法を練習するにぇ。練習用の呪物は町で見繕えばいいにぇ」

「え、そんなに都合よく手に入るかな……? それに、練習するにしても聖属性の浄化魔法なんて知らないよ?」

「呪物の一つや二つ無い町なんてそうそうないにぇ。魔法は……仕方ないから我がある程度教えてやるにぇ」

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