過保護な聖騎士
「まだ旅立ったばかりなのに、邪なる者の気配を察知して殲滅した事は大いに評価されるでしょう」
「え!? 私は叫んでただけで倒したのはサイラス君だよね?」
「何を仰いますか、元はと言えばあの廃教会に気付かれたのはエリス様でした。悪霊を掃えたはエリス様の導き有っての事です」
日が暮れ始めたから『あの森なんだか怖いね』って世間話をしただけのつもりだったんだけどね……。
『エリス様も邪気を感じて取られていたんですね』ってサイラス君が言い出して、廃教会に案内されただけだからそれもサイラス君の手柄だと思うけど……。
「……それより、そろそろ休んだ方がよくないかな?」
「私とした事が、慣れぬ旅でエリス様に無理をさせている事に気付かず申し訳ありません」
「私は全然大丈夫だよ! ……むしろ、無理をしてるのはサイラス君の方じゃない?」
馬車での移動を想定してたのに合流場所にしてた馬車広場に着いた時、自分の目を信じられなかった。そこにいたのは、サイラス君と一頭の立派な白馬だけだった。
「私は鍛えているのでご心配なく」
「ええぇ……」
私だけ馬に乗ってるのは流石に恥ずかしいよ……!!
白馬に乗った聖女様を聖騎士が先導するのが由緒正しい聖女の旅の仕方って力説されて、馬車乗り場では周りの目が気になって折れちゃったけど……やっぱりおかしいよね!?
「えっと、次の目的地はサダーラの町だよね? 無駄遣いはあんまりしない方がいいかもしれないけど、サイラス君が馬に乗れるように台車を買わない? 私が台車に乗るから――」
「台車……? ふふ」
いつも無表情なサイラス君の口元がちょっとだけ上って、くつくつと笑いながら歩くのを止めた。
「未来の大聖女様を台車の荷台に乗せて、自分だけ馬に乗る聖騎士なんていないでしょう」
サイラス君は物凄く私の事を丁寧に扱ってくれて、初めての経験でこそばゆいけど流石におかしいよ! なんだか、彼の中の聖女像が一昔前で止まってるような気がする。
由緒正しい旅の仕方も絵本でしか見たことが無いし、今どきの大聖女様は物凄く豪華な馬車に聖騎士を何人も引き連れて移動するのに。
「んー……分かった! 台車の事は街に着いてから考えよう? とにかく、日が沈んじゃったしサイラス君も戦って疲れてる……よね? 明日に向けてしっかりと休もう?」
「畏まりました」
疲れてるか確認する時無意識に言葉が詰まっちゃったけど、流石に疲れてるよね?? だってリッチと戦ったんだよ??
「野営の準備をさせて頂きますので少々お待ちください」
「私も手伝うよ? あっちに小川があったから水を汲んで――」
サイラス君に一気に距離を詰められて、大きな手で私の手を覆われながら顔を覗き込まれてどきっとする。
「エリス様、まだケルンから遠くないとは言えここは街の外です」
「う、うん」
「魔物が襲って来る可能性も、夜盗が現れる可能性もあります。危険に遭遇した時、一人で対処できると言い切れますか?」
「それは、その……」
サイラス君に諭されて心が沈む。街の外での野宿は安全が一切保証されてないのに、初めての旅でちょっと浮かれてたのかもしれない。
「私だけはしゃいじゃってごめんね? 旅をする事を舐めてたかも……」
「謝る必要はありません。私がほんの少しだけ過保護なのも事実です……それでも、安全が確保できるまで待機して頂きたいんです。ご了承頂けますか?」
「うん。これからは気を引き締めるから安心して! サイラス君が安全だって判断出来たら手伝っても良いんだよね? それまで待ってるよ」
「……」
あれ? 安全が確保出来たら野営の準備を手伝っても良いんだよね? なんで何も言わずににっこりしてるの?
「……私が手伝っても大丈夫になったら声を掛けてくれるよね?」
「……」
「声を掛けてね……?」
「……はい」
念押しをしてやっと声を掛けてくれるって言ってくれたけど……サイラス君の今の私に対する信頼度の表れだよね。これから一緒に旅をするんだから、早く認めてもらえるように私も頑張らないと。
「それでは、安全が確保できるまでディートリッヒに乗ったままお待ち頂けますでしょうか?」
「……ディートリッヒ??」
「我が愛馬の名です」
「ヒヒーン」
ここまでずっと乗せてくれたのに、色々とテンパってて名前も確認してなかったのは失礼な事をしちゃったな……。
「わ、分かった!」
「それでは、失礼します」
「わ!?」
手を握られたまま、サイラス君にされるがままにディートリッヒから降ろされる。私は小柄だけど、まるで羽を抱え上げたかのように軽々と私を持ち上げて、ゆっくりと地面に降ろしてくれたサイラス君の膂力に驚く。
「では、少々お待ちください」
「う、うん!」
 




