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様子がおかしい聖騎士候補

「……とにかく、仕送りの件が解決すれば課外学習の期間は半年でも問題ないですね?」

「あの! 私は良いんですけど、そんなに長い間サイラス君を拘束するのは……」


 多分学園長は私がより多くの経験を積めるように最長で期間を設定しようとしてるけど、サイラス君をそれに付き合わせるのは流石に……。


「エリス様の進む道が私の在るべき場所です」

「……問題なさそうですね、それでは――」


 学園長、さっきから軽く流してるけど絶対サイラス君の反応がおかしいって思ってるよね? ずっと私としか目を合わせて話してないよね??


「――書類の提出が遅れてしまったので急にはなりますが出発は来週の水曜日、王都ケルンから北上した先にあるリーベに向かって頂きます」

「リーベ……」


 学園があるケルンと生まれ育った村以外の都市に行くのは初めてだ。緊張と期待が重なって、胸がそわそわする。


「リーベにあるグラナタ大聖堂で祈りを捧げてから学園に帰還すれば、順調に旅が進めば往復に四カ月も掛からないでしょう」

「四カ月……大分余裕を持って日程を組むんですね?」

「道中救いを求めている方々に手を差し伸べていたら、これでも時間が足りないと感じるかもしれませんよ?」

「わぁ……」


 救いを求める人々を助けるなんて本当に聖女みたいだ。


 落第生の私は多分一生を聖女候補で終えるだろうけど……課外学習中、ほんの少しだけ本当の聖女様の気分を味わえるかもしれない。


「こうしてはいられません。早速出立の準備に取り掛からなければ」

「そ、そうだね! サイラス君、準備する物なんだけど――」

「エリス様、不肖の身ではありますが旅の準備は私にお任せください」


 聖女候補の私なんかよりも、よっぽど慈愛に満ちた笑顔を浮かべながらそう言ったサイラス君に一瞬流されそうになったけど、半年間の長旅の準備を彼一人にさせる訳にはいかない。


「でもね、一緒に準備した方が――」

「エリス様のお手を煩わせる必要はありません。早速ですが、一足先に御前を失礼する無礼をお許しください」

「え? ……え!?」


 さっきまで隣に座っていたはずのサイラス君がいない……!?


「……彼は優秀なので、旅の準備は任せてあげても大丈夫だと思いますよ」


 いや、優秀とかそういう次元の問題じゃないよ!? 瞬間移動したとしか思えないんだけど!?


「ちょ、ちょっと学園長!! 優秀とか以前に色々とつっこむ所がありますよね!?」

「毎回つっこんでいたら体が持ちませんよ?」

「体がもたないって……学園長は、私とサイラス君の相性が良いって言ってませんでした??」


 ギギギと音が鳴りそうなほどぎこちなく首を動かしながら、学園長が自然を装いながら私から目を逸らした。


「彼がエリスが殻を破るきっかけになってくれると私は信じています」

「……体よく問題児を纏めて処理しようとしてるとかじゃないですよね?」

「全く、大切な教え子にそんな事をするわけないでしょう」


 先程のぎこちなさが消え、自然体に戻った学園長が呆れ混じりの声でそう言いながら私の頭を優しく撫でた。初めて村で出会った時以来の出来事にびっくりして、羞恥で思わず手を払う。


「もう子供じゃないからや、やめてください!」

「ふふ、教え子の成長は喜ばしいのと同時に少し切なくもありますね」


 絶対そんなに成長してないって思ってそうな顔で言われても……でも、厄介払いしようとしてた訳じゃなくて安心した。


「課外学習では色々な苦難があると思います……でもエリスならサイラスと協力して必ず乗り越えられます。期待していますよ?」


――――――――


「いやあああああああ!!!? サイラス君!?」


 解放された霊がまるで仕返しをするかのように青白い骨だけの手でサイラス君の首を絞め始めた。


「偉大なるリッチである我を愚弄したことを後悔させてやる!! 貴様には死すら生温い!!!! お前の前でその女を拷――」

「この霊はだめですね」

「ふぎょ!?」


 怒り狂ったリッチのお腹……お腹? があるはずの位置にサイラス君が拳を放った瞬間、情けない声を上げてからリッチがその場に蹲った。


「聞くに堪えない言葉をエリス様に聞かせるなんて……浄化魔法の練習台になることも烏滸がましい」

「う……ご、おのれ……あが!?」


 さっきからなんでサイラス君は当たり前の様に霊に触れられてるの?? 頭蓋骨を鷲掴みにされたリッチが声にならない声を上げながら悶え苦しみ出した。


「こんな低俗な存在をエリス様と関わらせるべきではなかった」

「あぐっ……あっ……やめろぉ!!」

「エリス様、浄化の魔法の練習はまたの機会にしましょう」


 力んだサイラス君が掴んでたリッチの頭を粉々にしたのと同時に、リッチの体と纏っていた闇の衣も霧散してく。


 廃教会には私と、満面の笑みを浮かべながら握った拳をそのままガッツポーズに変えたサイラス君だけが残された。


「もうこちらに用はありませんね。旅を再開しましょう」


 素手で……え? 浄化の魔法無しでリッチを消滅させたの??


「さあ、行きましょうエリス様」

「は、はい!? 分かりました……」

「エリス様、私相手にそのような言葉遣いは不要ですよ」

「は――、うん……?」


 あんなの見せられたら敬語にもなるよ!? 素手でリッチを倒せるなら私いらなくない!?


「しかし難儀ですね。礼儀を弁えている悪霊を見つけるのは少しだけ骨が折れそうですが……何とかして見せます」

「サイラス君。礼儀を弁えてたらそれはもう悪霊じゃないんじゃないかな……?」

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