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お向かいのゾンビさん

何も考えなくてもぼやーっと読めるような作品が書きたかった…。

 某県某市、深夜に小腹がすいてちょっと近所のコンビニまで歩いていた俺は、港方面が急にパアッと明るく光るのを見た。何故か光は虹色だし、特にイベントも行われていない筈だし、打ち上げ花火にしては地上過ぎた。音もない。


 興味を引かれて、そちらへ足を延ばす。そして、大量の人が悲鳴を上げながら海で溺れているのを発見し、慌てて110番と119番した。救助、という事で自衛隊の方々まで来てくださって、一斉に浮き輪などを投げ入れ、どんどんと暗がりの港へと引き上げ作業が行われていく。暗がりでは怖いだろうとバスタオルを掛けてあげながら警察の人が灯りを用意してあるほうへと1人連れ出し、叫び声を上げた。


「ウワァアアアア!?ゾ!?……ゾンビ!?」


 土気色の肌、所々に重症どころか即死レベルの穴が開いた体、皮膚が腐ってむき出しになった筋肉層と蛆。


「え?あ、は、はいゾンビです…あの…助けていただき、どうも有難うございます。内臓が零れて死んじゃうかと思いました…」


 ゾンビとは。「あ”~~」とか言いつつ不自然に手を垂直に持ち上げながらふらふら近づいてくるのがデフォルトだと思っていた俺、と、どうやらその他の皆様。特に危害を加えて来るでもなく、まだ海から「助けて~!」と悲鳴の聞こえる状態で、救助隊の方々は取り合えず思考を放棄したようだ。


 機械的に救助作業を続ける。救急の方々は何をしていいか解らない様子で、一旦引き上げて行った。多分出来る事がなかったのだと思われる…。ころりと何かが靴先に当たるのを感じて拾い上げると目玉だった。悲鳴を上げて投げ捨てたかったが、1人のちょっと可愛いゾンビ娘さんが「あ、私の…」と言いつつ目玉を受け取りに来た。心を無にして引き攣った笑みで返してあげた。


 もう帰ろうとして踵を返すと、警官に肩を掴まれた。


「通報者は君だね?」

「真に遺憾(いかん)な事にそうですね…」

「一応事情徴収させて貰うよ」

「はあ…」


 と言っても、港が虹色に光ったから不審に思って見に来たら人が大量に溺れてるのを発見して通報した、としか言いようがない。警官さんは暫く唸った後、俺を解放してくれた。


 次の日のニュースで早くも取り沙汰されていた。どうやら異世界から一族で移住に来たらしい。ニュースキャスターさんはなんども「!?」という顔でつっかえつつ、『賭けのような片道切符で()()――したそうで、戻れないとの事。一先ず受け容れする事になったようです』と、最後には死んだ目で読み上げるキャスターさん。


『攻撃性は皆無、ゾンビになられた訳ではなく、最初から種族がゾンビという方々です。噛まれたりしても人がゾンビになる事はありません』


 キャスターさんがガタガタ震えながら読み始めたのを見ているのが辛くなり、俺はTVの電源を切る。


 うん、知ってた。知ってたよ…だって今日空き家だった向かいにゾンビさんが引っ越してきたから。


 俺は市に掛け合って、公民館のような所を借りて、全てのゾンビさん達を集めてゾンビ映画を立て続けに2~3本放映した。


 意外な事にホラー慣れしてるこっちの日本人よりも、ゾンビさん達が一々反応しては悲鳴を上げていた。泣いてる子も居る。目玉落ちちゃうからあんまり泣かない方がいいよ…。


「えー…、これがこっちの世界には居ないにも関わらず、想像で生み出されたゾンビという固定観念です」


「似てるの見た目だけじゃないですか!人を襲ったり食べたりなんてしないですよ!!」


「え…何を食べてるんですか?」


「光合成に決まってるじゃないですか!陽のある内はずっと草むらや屋根で光合成してるでしょう私達!」


 あ。あれ、死んだフリじゃなかったんだ…。確かにちょっと皮膚緑っぽいなと思ってた。


「草むらは出来ればやめてください、死体遺棄事件として通報されますんで」


「あ、もうされたので草むらはやめようという話になったばかりです。出来れば安全な光合成場所が欲しいのですが」


「あー、その件は持ち帰って検討させて頂きます」


「宜しくお願いします」


「で、映像の件なんですが、殆どの人はこの映画みたいなものがゾンビだと思いこんでます」


 殆どというか、赤子以外ほぼ全員だよね。というか、死体が歩いてるようなものなんだから怖いに決まってる。


「横暴ですよ!我々こんな事しませんから!」


 横暴っていうか…文化なんだよな…。


「この星に住んでる人の殆どがそう思って今迄生きてきてるので、覆すのは容易ではありません。大体なんで傷口開いたままにしてるんですか。包帯で覆ったり…、服で隠したり、何かあるでしょう、方法が!」


「こっちにだってダメージジーンズって文化があるじゃないですか!」


「え…ありますが、何の関係が…」


「お洒落ですよ!此処の破れ目から肋骨がチラっと見えたりするの最高にオシャレでしょう!」


「目を眼帯で覆ったりしないのは…」


「意識してる人の前でぽとっと落し物をして届けてもらう出会いは誰でも憧れでしょう!?」


「それが目玉だとこっちの人は多分凄く嫌な顔をしますよ。最悪悲鳴上げてスルーですよ」


「あ、あたし、その人の前で目玉落としてみたけど、え…笑顔で渡してくれたもん…♥」


 我ながら相当に引き()った顔してたと思いますがね!?


 ちょっとくねくねしてるゾンビ娘さん、ごめんなさい、顔は可愛いけど、ちょっとゾンビは…範疇外(はんちゅうがい)なんで止めて下さい。


「兎に角、皆様はこの市で受け容れしますが、他の都道府県や市外には暫く出ないで下さい!!バラバラに解体されたい願望がある方だけチャレンジして下さい。そのうち、皆さんの存在が日本中で安定して受け容れられるようになったら、遊びに出ても良いという許可も出るかも知れませんが、今はムリです。当分ムリです。かなり長い間ムリだと思います。そして、他人の家に上がるときや公共の施設に入る時など、腐汁が落ちないよう完全な防水装備で来られるよう気を使ってください。伝染らないとニュースでも告知してありますが、其処から伝染るんじゃないかと思ってる方が大半です。何より他人の体液の上を歩いたり座ったりするのは、この国では非常に嫌がられます」


 因みに今回は一応告知したのだが、雨合羽を羽織ってくる程度の方々ばかりで椅子も床もべちゃべちゃしている。ブルーシートを床に引いた人はグッジョブだ。パイプ椅子は多分廃棄だろう。


「ここも…ですか」


 ぽつりとゾンビさんのリーダーのような方が零す。


「以前居た世界でも、汚い、臭い、近寄るなと言われ、最後には狩られそうになって仕方なく一か八かの転移で此方に移ってきたんです。でもここでもやはり…!光合成で生きるだけの我々が何をしたって言うのですか!」


 確かに汚くて臭いんだからしょうがない面があると思う。でも意外とそこまで臭わないんだよな…。


「この世界の消臭スプレーという奴はかなり優秀で、匂いの面ではかなりクリアできたと思います、あとは汚い、なのですが……それがこの腐汁、という訳ですね…」


 時々落ちてる肉の切れ端と蛆もね。というかふぁ●りー●凄いな。皆装着してるじゃないか。


「…傷口を全部包帯で覆うとか…」


「試しましたが、吸水力が足りず…」


「…女性のデリケート日を快適に過ごせるよう頑張ってる会社に依頼してみましょう…」


 会社可哀想じゃない?そうでもない?でも色んな傷口あるけどどうカバーする気だろう。


「その依頼品が出来上がるまでは、皆さんには完全防水装備をお願いします。最悪公共の場所を立ち入り禁止になりますので、気をつけて下さい」


「そんな…大人のオムツを体中に貼り付けて、オシャレも服で隠して生きろと…そう言うのですね」


「有体に言えばそうですね」


「…乾きすぎると我々、肉が粉みじんになるのです」


「…それは死んでしまわれるような問題でしょうか?」


「いえ、スケルトンに種族チェンジします。この場合光合成が出来ないので、人から生気を吸う必要が出てきます」


「「…………」」


「…んんっ。腐汁が滴り落ちなければ済む話なので、肌の全部をオムツ的なもので覆う必要はありません。服は着ていただきます。手の場合はビニール手袋をして頂きます」


「………チッ」


「大体、こちらの人間は、肌の隙間から肋骨が見えて格好いいと思う者はいません。救急車を呼ばれます。服を着ずに外を歩いたり、破損して何も隠せてない服などで歩いた場合、公然猥褻(わいせつ)罪として罪になります。これはこちらに住む地元の者でも同じです」


 猥褻(わいせつ)になるようなものが既になかったり腐ってたり蛆で隠れてたりもしますけども。


「………解りました……」


 あんまり納得の行っていない顔でゾンビリーダーさんが頷く。市長はかなりホッとした様子で続ける。


「皆さんには、空き家になっている家をお貸ししています。今の所はそれでいいと思いますが、そのうち働く必要が出て来るでしょう。皆さんに出来る働き方をこちらでも提案できるよう頑張って探しております。暫くはこちらに慣れる様、先ほどの約束がしっかり守れるようになって下さい。会社から吸水装備が届き次第、市からの配給品としてお届けします」


 そこで一旦解散となり、気疲れで座り込んだ市長をSPさん達と一緒に労わった。なんで俺此処まで介入してるんだろう。フリーターだから賃金の良さに釣られたのもあるけどね。


 しかし、暫くしてゾンビさん達の労働問題は片付いた。期せずして町興しになったのだ。


「この町ではあのゾンビに会える!(襲われたりしません)」


 という噂が全国に広まり、全国各所や外国の方までゾンビを見に来るようになったのだ。特に光合成している所は衝撃映像のようで、あちこちで写メや動画が回されている。そのうちゾンビ地区として固まって配置され、ゾンビ村として入場料を取られるようになり、それがゾンビさん達の給料となった。


 しかし、それでも。


 うちの向かいのゾンビさんは引っ越さない。よくよく見てみると、目玉でアピールしてきたゾンビ娘さんが居る。


「娘の初恋の人の家の前」という事らしい。勘弁して下さい…。


「ふ…ふつつかなゾンビですが、どうぞ仲良くして下さい…!」


 1月後、水分吸収体装備で腐汁問題が片付き、きちんと可愛い服で傷も見えないように覆い、眼帯をしたゾンビ娘さんに、不覚にも心揺らぐ俺であった…。



読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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