【第4話】空から見えるもの
【第4話 登場人物・用語解説】
〇オルド … 王家に三代仕える忠実な老兵。アレス王・ルイス両名の教育係であり執事でもある。
〇グリフォン … 王家専用の魔獣。空を飛ぶ乗り物として用いられる。
〇空中神殿 … コスモギルド本部。エリオス星上空に浮かぶ巨大な建造物。
グリフォンの背に揺られながら、私はふと顔を上げた。
目の前に広がるのは、あまりにも巨大な建造物――コスモギルド本部、空中神殿。
藍色の空を背に、黒曜石のような深い色合いを湛えた外壁がそびえていた。滑らかな石肌には白銀の繊細な細工が施され、無数の星々を象った模様が光を受けて静かに輝いている。
神聖でありながらも、どこか冷たい荘厳さをたたえたその姿は、まさに宇宙最大の権威を象徴していた。
近くで見上げて実感する。この建物は、ただの建造物ではない。コスモギルドという秩序そのものを体現する、空に浮かぶ砦だった。
その建物は、実際に二百階に達する超高層構造だった。だが数字など、もはや意味を持たない。
神々の座す砦。そんな言葉すら、生ぬるく感じるほどだった。
この内部には、宇宙を支配するために必要なあらゆる機能が収められている。
円卓の間を始め、各星の代表団が集う議事庁、星間通信局、軍事司令塔、研究機関、魔法図書館、組織員たちの家や、大使たちが滞在するための居住区。コスモギルドの中枢すべてが、この一つの神殿に凝縮されているのだ。
私はその巨大な姿に、思わず圧倒された。
これが、いずれ私が背負うべき運命の場所。胸の奥が、不思議に熱くなる。
やがて、グリフォンが旋回し、高度を下げ始めた。
眼下に広がるのは、エリオス星最大の都市、セラフィアだった。
純白の城壁に囲まれた都市。
中心には、青と白を基調とした美しい大城、“セラフィア城”がそびえている。繊細な曲線と雄大な尖塔が調和し、まるで空と一体化しているかのような光景だった。それが、アレス王、そして我らエリオス王家の居城だった。
城を中心に、街は放射状に広がっていた。
白い石畳の通りで綺麗に区画分けされ、その間に整然と家々や商店が立ち並ぶ。中央広場では市場が開かれ、魔法による浮遊灯が空に漂い、華やかな看板や布地が風にはためいている。
行き交う市民たちの笑い声や商人たちの威勢のいい呼び声が街中に響き、セラフィア全体が生きているかのような活気を見せていた。
私はその光景に、自然と胸を熱くするのを感じた。
グリフォンは、城の高層に設けられた専用の発着広場へと滑空していく。青と白の塔がすぐ目の前に迫り、その純粋な色彩が空に溶け込んでいた。
その時、前方に座るアレス王が、ぼそりとつぶやいた。
「もう慣れたが、それでもやはりグリフォンでの移動は面倒だな。移動魔法を使いたいものだ」
「……?」
私は首を傾げた。
「父上、それはどういう意味ですか?」
すると、前方で手綱を握るオルドじいが、からからと笑った。
「ははは、グリフォンでの移動に慣れすぎて、忘れてしまいましたかな、ルイスおぼっちゃま」
オルドじいは振り返り、楽しげに続けた。
「本来であれば、移動魔法を使えば一瞬で済む道のりです。本部から街へなど、ひと跳びで飛べます。しかし――」
私は、その先を聞くよりも早く、頭の奥の記憶が蘇る。理由を思い出し、あっとした顔をする。
オルドじいは穏やかな口調で続ける。
「目的地である首都セラフィアは、強力な結界によって守られております。それにより、魔法による侵入が一切できないのです。だからこそ、地上から歩くか、上空から正規ルートを使うしかない。それゆえ、毎回こうしてグリフォンに乗って行き来しているというわけですな」
オルドじいは、さらに懐かしそうに目を細める。
「かつてルイスおぼっちゃまの祖父にあたる、先代王もこうして、毎日のようにグリフォンに揺られておりましたよ。私はその頃からずっと、この空を何度も何度も往復しているのです」
私は父上と視線を交わし、自然と小さな笑みを浮かべた。
そして、グリフォンはついに、青と白の城の発着広場に静かに降り立った。
足元に敷かれた白い石材が、陽光を受けてきらめいている。
私は軽やかに地面に足をつけ、空から見た時とは違う、地上に立った時のセラフィアの迫力と息吹に、胸を高鳴らせた。
お読み頂き、誠にありがとうございます。
早い更新を心掛けてます、是非次話もご覧下さい!
もし良ければ、ブックマークと評価をしてくだされば幸いです。