【第2話】父と子
【第2話 登場人物・用語解説】
〇ルイス・エリオス … エリオス星の王子。コスモギルドの次期継承者でもある。
〇アレス王 … ルイスの父。現エリオス星国王にしてコスモギルドの総帥。
〇コスモギルド … 宇宙の秩序と魔力の均衡を守る超巨大連合組織。500の星々から構成される。
〇地球 … 宇宙でも突出した魔力を秘める封印された星。地球人はコスモギルドの封印により、本来使えるはずの魔法が使えない。会議の議題となる。
自己紹介を求められた私は、手短に名を名乗っただけだった。あの重苦しい雰囲気の中で、これ以上何かを語ろうとは思えなかった。
その後、会議は再開された。先ほどのような熱は引き、口を閉ざしていた十星の代表たちも順に発言を始めた。
地球に関する重大な議題にも関わらず、彼らは皆、表面を撫でるような言葉を並べていた。やはり、それぞれが一大文明の頂点に立つ者たちだ。発言には、想像を絶する責任がのしかかる。だからこそ、言葉を選びすぎているようにも感じた。
それにしても、上っ面だったが。
やがて会議は、予定より早く閉会となった。
今日話し合ったところで、結論は平行線を辿るだけだと判断されたのだ。次の会議は一週間後に設定され、それまでに各星の代表たちは、それぞれ自国に戻り、意見をまとめることとなった。
代表たちは次々に席を立ち、重厚な扉を抜けて去っていく。
円卓の間に残ったのは、私と父、そして少数の護衛たちだけだった。私は席に座ったまま、父アレス王の動きを待った。
全員が去ったのを確認すると、父と私は無言で目を合わせ、同時に立ち上がる。扉へと向かう途中、控えていた衛兵たちが深く頭を下げる。父は軽く頷き、私もそれに倣い、胸に手を当てて一礼を返した。
静かな渡り廊下へと足を踏み出す。黄金に輝く柱が並ぶ廊下は、なんとも荘厳で威厳を感じさせる。ここは、広大な宇宙の頂点達が揃う場所であり、他の空間とは隔絶された雰囲気を持つ。
私と父は、並んで歩いた。言葉はなかったが、空気は不思議とあたたかかった。
私は堪えきれず、父に問いかけた。
「…どうして、あんな場で私に自己紹介をさせたのですか」
父は立ち止まり、肩をすくめた。
「すまなかった。だが、お前もあの場に慣れなければならない。あれは、お前自身の未来でもあるのだからな」
私は小さくため息をついた。あの厳粛な場で、わずかに緩む父の表情を見ると、不思議と怒りは続かなかった。
「それに……お前には、エリオス星の誇りを、肌で感じてほしかった」
父の声は、どこか遠くを見るように静かだった。
しばらく歩いた後、父は再び口を開く。
「私は若い頃、地球に行ったことがある」
私は黙って頷いた。エリオス王族にとって、地球訪問は伝統的な慣習。王の血を引く者なら、誰もが通るべき道だと知っていた。
父は静かに言葉を継ぐ。
「魔力の濃い大気を体に取り込み、王としての資質を完成させるための儀式だ。無論、分かっているな。いずれお前も行くことになるだろう」
私は真剣に耳を傾けた。父は微笑みながら続ける。
「私は日本という国に滞在した。魔法も魔力も持たない。だが、それでも人々は力強く生き、未来を信じていた」
その目は、遠い過去を見つめているようだった。
「人類は決して劣った種ではない。魔法がないからこそ、考え、工夫し、希望を手放さずに歩み続ける。その姿は、我々が忘れかけている本当の生命の強さを思い出させてくれる」
父は少し足を止め、こちらを見た。
「ルイス。お前は、どう思う」
突然の問いに、私は一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。
「……弱い。でも、懸命だと思います」
それが、偽りのない感想だった。
アレス王は満足そうに笑った。
「そうだ。弱さは罪ではない。力なき者が、なお未来へ進もうとする姿こそ、本当の誇りだ」
父は優しく、しかし力強い声で続けた。
「彼らを弱くしたのは、我々コスモギルドのエゴだ。地球の生命は、本来もっと自由に進化できたはずだった」
そして、真剣な眼差しで私を見据えた。
「だからこそ、我々は彼らを守らねばならない。すべての知的生命体を守ること。それが、エリオス星人としての誇りだ」
父の言葉は、まっすぐ胸に響いた。
「ルイス。忘れるな。力とは、支配するためにあるのではない。守るためにあるのだ。宇宙の秩序を守ることこそが、我々のさだめだ」
私は静かに頷いた。心の中に、静かに、しかし確かに、一つの誓いが芽生えていくのを感じた。
このときの私は、まだ知らなかった。父の語った誇りが、いずれ試される日が訪れることを。
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