【第1話】星界評議会
宇宙歴第9745周期。地球歴2025年。
この宇宙の中心部、巨大な星団を貫くように、ひとつの組織が存在していた。その名を”コスモギルド”という。
宇宙に存在する数千兆という星々の中でも、巨大かつ超高度な文明を築きあげた星は、わずか五百のみ。それらの星は、知的生命体によって真に魔法文明へと到達した、限られた星々だ。その超エリートたちによって築かれた、宇宙最大の秩序連合こそが、このコスモギルドである。
この広大な宇宙において、魔法を操ることは知的生命体にとって当然の摂理だった。魔力とはエネルギーであり、至る所に存在し、生物が生きる上で欠かせないもの。それを体の一部のように使いこなし、魔法を使うことは、知能を持つ生物にとって当たり前の行動だ。この宇宙にとって、文明とは全て魔法を礎として築かれたものだ。
だが、魔力を持つがゆえに、宇宙は常に混乱と破滅の危機に晒されていた。絶えずどこかで戦争が起き、兆の星が消滅し、数個の銀河が滅んだこともある。そんな戦争の時代が、宇宙誕生から90億年近くも続いた。
コスモギルドは、そんな宇宙の均衡を守るために、約50億年前に設立された。数百の星規模の小さな戦争が起きることはあったが、コスモギルドが発足してからは宇宙大戦が起こることはなかった。それ程、コスモギルドの支配力は偉大であり、宇宙の治安を守っていた。
そんなコスモギルドを構成する、五百星の中でも特に優れた十二の星があった。
彼らは”星界評議会”を構成し、宇宙の方針を決定する絶対的な権限を持っていた。
そして、その頂点に立つのが首都星、”エリオス星”である。
エリオス星は、宇宙創世の古代書にすら名を刻まれる由緒正しい王国。その支配者たちは、聖なる血脈と呼ばれ、あらゆる星々から絶対の敬意と畏怖を集めていた。
そんなエリオス星の中心部、黄金の神殿都市にある巨大な建造物。宇宙最大の建造物であり、その中でコスモギルドは活動する。
そして、その建物の頂上に位置するのが、”星界円卓の間”。今日、その場に、十二星の代表たちが集っていた。
会場中央、ひときわ高い玉座に座す男。赤交じりの黒髪に深紅の王衣をまとい、ただそこに存在するだけで空間を圧倒する。
現コスモギルド総帥であり、エリオス星国王。アレス・エリオス。
場は、彼の存在感だけで張りつめていた。
アレス王が、重厚な声で開会を告げた。
「これより議題に入る」
厳粛な空気の中、アレス王が続ける。
「本日、議題を提出したのは、ヴェルス星代表、レイ・ヴェルス。レイ、発言を許す」
円卓の一角、黒衣をまとった青年が静かに立ち上がった。
レイ・ヴェルス。もとは弱小国にすぎなかったヴェルス星を、父と彼自身、二代にわたる徹底した改革によって、今や十二星に並ぶ魔道と経済の超大国へと押し上げた若き支配者だ。
その歳、180歳。この宇宙では、成熟したてのまだ若者と見なされる年齢。しかし、既に彼は三十年もの間、ヴェルス星を統治。宇宙に名を轟かす、一大星主になっていた。
レイは一礼もせず、冷たい声で告げた。
「本日の議題は――地球についてだ」
地球。その単語を耳にした瞬間、胸の奥にざわめきが走った。
地球という星。それは、宇宙の常識から見れば、あまりにも異常な存在だった。
宇宙の片隅に浮かぶ、小さな青い星。だが、その内部には、宇宙の半分を上回るほどの莫大な魔力が秘められている。そこらへんに転がるただの石一つで、巨大都市一つを百年支えるほどのエネルギーを持つ。
だが、魔力に溢れた地球の知的生命体は、魔法を使わない。いや、使えない。
本来、知的生命体は生まれながらに魔法を操り、文明を築き、星を発展させていくものだ。
しかし、地球だけは違う。地球の生物たちは、圧倒的な魔力を持ちながら、誰一人として、魔法を扱うことができなかった。
なぜなら、我々コスモギルドがそれを阻止したからだ。地球の生物がその巨大な魔力を扱えば、被害は計り知れない。地球人に、宇宙全土が支配されてしまうリスクだってある。
かつて、地球では、恐竜の一種であるラプトルや、古代の人型生命体が魔力に適応しかけた。だが、それを見逃すわけにはいかなかった。
我らコスモギルドは、地球に存在するすべての生命に「ロック」を施し、体内魔力の発現を封じた。
その結果。地球は、魔法を知らぬ未完成な星へと成り果てた。
レイは、冷たく続けた。
「地球のエネルギーは、愚かな生物たちによって浪費されている」
「いっそ、生命を一掃し、星を完全なる資源へと転換すべきだ」
議場に小さなどよめきが起こる。冷や汗が垂れ、私は無意識に拳を握りしめた。
確かに、合理的な提案ではある。だが、それは人道に反したものであり、今まで何度も提案されたことだが、時の支配者によって拒否されてきたことだ。今回も変わらないはずだ。
玉座から、アレス王が立ち上がった。
「地球は、いかなる星よりも強大な魔力を宿している。だからこそ、慎重に扱わねばならぬ」
「生物を一掃して力を強奪すれば、星そのものが枯れ、宇宙の均衡は破壊されるだろう。今まで通り、我らは、必要な分だけを、慎重に、計画的に得るべきだ」
アレス王の言葉には、重みがあった。今まで何千と支配してきた祖先達の思いも、彼の言葉に乗っていた。
だが、レイは退かなかった。
「変革を恐れる者に、未来はない」
空気が、ぴしりと張り詰めた。しばらくの静寂が訪れる。
アレス王は静かに王笏を鳴らした。
「……少し、熱くなりすぎた」
「今回は、新顔もいる」
彼は隣に座る私を見た。
「私の息子だ。彼の自己紹介すらもしていなかったではないか。休憩ではないが、一度、区切るとしよう」
十二の代表たちの視線が、一斉にこちらへ向かう。
王の隣に座る者。
宇宙の支配者である、アレス王の唯一の息子にして、エリオス星の後継者。そして、いずれコスモギルドを継ぐ者。
そう。彼こそが、この私、ルイス・エリオスだ。
(第1話・完)
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