約束
幸い致命傷は免れたため、エイが回復するまで休むこととなった。
メアリーは彼の看病をするが、ヘレナは上の空のようだった。
そんなある日のこと彼がお願いをしてきた。
「今日、両親の墓参りをして欲しいんだ」
メアリーはコクンと頷くと出かけようとする。
ヘレナは一緒に行こうと思い声をかける。
彼女は断ろうとするもエイの頼みもあり、二人で行くことになる。
「あなたは元お嬢様だよね?こういうことにも興味はあるわけ?」
嫌味を言われる。
無理もない、エイの現状を作り出したのはヘレナなのだから。
もし、あの時言われた通りに引いていれば、そう思うと胸が締め付けられる。
「そういうつもりでは……」
反論しようにもする気がなかった。
お墓にたどり着くと、掃除をして祈りをささげる。
「エイは一人だったのよ。孤独な彼の気持ちが分かる?」
ヘレナはふと口を開く。
「……その気持ちは分からないですわ。でも私も両親はいませんでしたわ」
メアリーは驚いたように目を見開く。
ヘレナはうつ向いたまま話を続ける。
「私は物心つくまえに亡くなっていたのですの。それから孤児院に入れられて養子として引き取られましたわ」
「……そう」
メアリーは彼女からエイと同じような雰囲気を感じた。
彼から話を聞いた時と同じ、深く沈んだ目だった。
帰るとき気まずいのは変わらなかったが少し違っていた。
メアリーは最初、怒りを覚えていたが、今はモヤモヤとした気分だった。
家に戻るとエイは笑顔で迎えた。
「ありがとう」
その言葉は二人にとって重かったのか、目線を合せないでいた。
「……何かあったんだね?」
彼に見透かされたようで二人は驚きながら首を横に振った。
「そうなのかい? まぁそれは今おいておこう。ゴブリン達にやられて正直なところ悔しい。統率者がいるのはあきらだがリベンジしたいんだ」
心配そうにメアリーが答える。
「悔しいのは分かるけど、あの数を相手にするのは無謀に近いわ」
「そうだ。このままではやられるのがオチだ。でも彼女がいる」
エイはヘレナを見る。
「君の能力は怪力だ。それがコントロールできれば勝てるかもしれない」
「コントロール……」
ヘレナは戸惑っていた。
また自分のせいで犠牲になるかもしれないと思っていた。
「でも私どうすれば……」
「メアリーが手伝ってくれるはずだ」
唐突な指名に驚きながらも、平常を装って答える。
「私にはそんなことできないわ。力のコントロールなんて知らないのだもの」
「いや、勇者ハロルドは魔力をコントロールするために体を鍛えたとあった。魔法には体の仕組みを利用したやり方があったはずだ。彼女にそれを教えればいいはずだ」
エイの言っていることは一見無茶苦茶ではあった。
だが、本当のことでもあった。
「…………私はまだ……」
メアリーが言いかけた時、エイが遮った。
「仲間だ。どんな時でも信じるのが仲間なんだ」
「……分かったわ。可能な限り教えてみるわ」
「メアリーさん……ありがとうございます」
ヘレナは深々と頭を下げた。
「保証はできないわよ。未知の領域なのだから」
二人は部屋を出る。
話しかけたのはヘレナだった。
「……自信がありませんわ」
自分に秘められた力がよく分かっていなかった。
しかし、メアリーは否定した。
「ああは言ったけど必ず成功させるわ。エイの為だもの。それと約束して、何もせずに弱音を吐かないで」
「メアリーさん、お優しいのですわね」
メアリーは顔を赤くする。
「や、優しいですって!」
「そうですとも。他人に尽くせるのは優しさの象徴ですわ」
「変なこと言わないで頂戴!」
しばらく無言が続いた。
「……修業は明日からね」
「分かりましたわ」
それからメアリーによる特訓が始まった。
魔力のコントロールの中には呪文の詠唱以外にも体を駆使することで発動するものがある。
しかし、使いこなすのは難しい。
ヘレナは四苦八苦しながらも彼女の指導を受ける。
エイはそんな二人を眺めながらリハビリを続けていた。
しばらくが経った。
「……ハッ!」
岩に拳を当てると粉々に砕け散った。
ヘレナの怪力は限界とまではいかないが、ある程度引き出せるようになっていた。
「流石ね。飲み込みも早くて助かるわ」
「バレエと似ていましてよ。それに教えるのが丁寧ですもの」
二人の距離感は少しずつだが縮まっていた。
エイが微笑ましく思いながら、自分は剣術を磨いていた。
すると、一人の男がやってくる。
「大変だ! 村にゴブリンの軍団が現れた!」
三人は目を合わせて頷く。
「修業の成果を見せてやりますわ!」