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1.お嬢様の異世界転生

「……ここはどこなの?」


女性が見渡すと森の中にいた。

小鳥のさえずりや暖かい日差しが森の平和を演出する。

しかし、彼女には疑問符が浮かんでいた。


「私は車の中で……」


頭の中を必死に巡らせて状況を思い出す。


「ヘレン様、学校が近づきましたよ」


 運転手が話しかけるとヘレンは青い瞳を上げて読んでいた本をしまう。


「ご苦労様」


 彼女は金髪のロングヘア―サッと手を整える。

 当たり前の日常だった。

彼女はお金持ちであるストロング家の令嬢であり、学校も学費の高い私立の高校へ通っている。

しかもお金持ちらしい運転手つきの車での通学である。


「ヘレン様、くれぐれも粗相のないように……」

「当然ですわ。毎日聞き飽きましてよ」


 その時だった。前から車が猛スピードで走ってきたのだ。


「ヘレン様! 伏せて下さい!」


 車をかわそうと向きを変えるも虚しく、激突してしまう。

 ヘレンは突然の出来事に叫ぼうとするも先に意識が薄くなり始める。

 ぼんやりと自分の人生が映画のように見えてきて、初めて走馬灯を味わう。

 車は道をそれて、壁にぶつかると彼女の意識は完全に失われる。

 

 思い出したヘレンは街中の車の中にいたはずなのに何故か森にいる。

 ふと呼んでいた本の中に思い当たるものがあった。


「もしやこれは……異世界転生!」

 

 大声を出すと木に止まっていた鳥たちが飛び出していく。

だが状況は似ていてもそんな非現実的なことはありえないと悟った。

  

「ありえませんわ。これは死後の世界だと認識する方が納得できますの」


 鳥たちが飛び去ったのは彼女の声ではない。

 茂みの奥でガサガサと音を立てるものがいた。


「でも天国にしては迎えがありませんでしたわ。これほどまでのレディをほっとくとは不届きな天使ですわね」


 彼女は茂みの音が気にならなかった。

 温室育ちは周りの気配や危険性を感じるのが疎いのだ。


「まぁ!倒れていたから制服に土埃が!」


 茂みの音の主は近づいているのに彼女は服の汚れを気にしていた。

 そして音の主は姿を現した。


「グゲゲ!逃げないとはとんだお調子者だぜ!」

「ギャー!」


 そのものは背が曲がっており鼻と耳がとんがっている、通称ゴブリンである。

 手にした棍棒を肩に担いで大笑いする。


「ギャギャギャ!このゴブリン様が恐ろしいか!」

「なんと……なんと……」

「どうした?どうなるのか先が見えて恐怖で言葉が……」

「醜い人間ですの!」


 ゴブリンはズッコケた。


「人間じゃない!ゴブリンだと言っただろ!」

「あら、言われてみればそう見えますの」


 ゴブリンは呆れていた。

 自分たちがそこまで賢い種族ではないと思っていたが、それ以上がいたなんて思いもよらなかったのだ。


「調子は狂ったが……身なりからして貴族みたいだな。お前ら!捕まえるぞ!」


 ゴブリンが手を上げるとわらわらと他のゴブリンたちが現れてくる。


「キャー! また醜いゴブリンが!」

「醜い醜い言うな! 気にしてるんだから!」


 ゴブリンたちが取り囲んだその時、剣を持った青年が現れる。


「お前達! そこまでだ! 戦士エイブラハムが女神アテナの名においてお前らを……」


 青年が何かを言いかけていた時、一匹のゴブリンが宙を舞った。


「このような醜い者達に囲まれるのは正当防衛ですの!」


 一匹、また一匹と宙に舞っていく。


「お、お前!? 何者……グギャー!」

「お黙り! 淑女に手を出す不届きものめ!」


気が付けばゴブリン達は消えていた。


「…………俺の出番は……?」


 ヘレナはサッと髪をかき上げるとようやくエイブラハムに気が付いた。


「あら、まさかあなたも私を襲いに……」

「違う。助けに来たんだが無用だったみたいでね」


 すると奥から光った杖を構えた女性が近づいて来た。

「……恐ろしいほどの力ね。同じ女性とは思えないわ」

 

集中させていた杖を降ろすと光が消える。


「あなた達は何者ですの?」

「自己紹介がまだだったね。俺は戦士エイブラハム・ワシントン。みんなからはエイと呼ばれているよ」


エイと名乗る人物は目つきが穏やかであるが、ところどころから見える筋肉や剣を軽く扱うところみると、鍛錬を積んできたことがうかがえる。

鉄の胸板の傷跡には戦いの数を物語っている。

戦士というには相応しい男だ。


「私は魔法使いメアリー・ウィンザー。二人でチームを組んでいるの」


 彼女は紫のローブを羽織っており、胸には黒い宝石がついている。

 青い髪の毛は透けるようにきれいだが瞳は黒く、深みがある。

 持っている杖は木製で棒状であるもののでこぼことした不規則な形をしていた。


「君の名前は?」


 エイからの質問にヘレンは答える。


「私はヘレン・ストロングよ。ラライモワル女学院に通っているわ」


 平然と答えるも彼は手を顎にやり悩んでいるようだった。


「ラライモワル……聞いたことない学校だな」

「え……有名な女学院ですよ?」

「私も聞いたことない。服装からして学生なのは分かるけれども」


 三者とも困惑していた。

 特にヘレンはこの世界のことを知らないのだ。


「とにかくここはどこなのかしら?」

「ここかい? スコタディの森だよ」

 全然聞いたことのない森の名前だった。


「とりあえずさ、俺たちの村に来ない? ここにいてもしょうがないし」


 この二人を完全に信用した訳ではないがヘレンはこのまま森の中にいるのも嫌だったのでついて行くことにした。


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