夢の島(10)
堂島啓逮捕の三日後、僕が丸一日寝込んでしまったり、みんな色々と後処理があって忙しいというのに、僕は長官に呼び出され、再び陰陽寮本庁の長官室でソファーに座っていた。ニャンコ隊長とクロードさんも一緒だが、本命は僕とのことだ。イケオジに本命と言われるとこそばゆいけど、僕は上坂さん一筋なので問題はない。
「さて、ナナキ・ウィークエンドくん。先日は見事な働きだった」
「は! 恐縮であります!」
「だが、君に話さなければならないことがあってね、今日はわざわざ来てもらったのだよ。この件について、誰よりも深く知識がある二人に同行してもらってね」
何か重要な話をしそうな前振りだが、陰陽寮長官・蒲原星辰の表情は柔和で、ともすれば、世間話で終わるかもしれないな、なんてこのときは思っていたものだった。
「さて、先に結論から言わせてもらえば、君は夢の落とし子で間違いない。堂島啓がどこでそれを知ったのかはこれから取り調べることだが、夜行さんが言った以上確定だろう。だが、この世界が夢であるかどうかと言えば、答えはノーだ。この島は確かに何者かによって閉じられているが、しかし、夢の世界ではないと言える。実際、外からこの島に侵入する者も毎年何名かいて、それらの話から、この島が夢の世界でないことは確定している。だとしたら、夢の落とし子とはなんなのか? 君は今、そのように考えているね?」
まったく図星なので、無言で頷くだけにした。
「それについては、順番に話さなければならない。まずは、最後の御言女の夢だとする説だが、明星くんから説明してください」
「ナナキ、お前はさっきから疑問がすぐに顔に出るにゃ。捜査官としてはどうかと思うにゃ。ところで、なんでここでアタシからの話になるかというと、最後の御言女というのが、アタシのご先祖様だからなんだにゃ。……そんなにビックリした顔するにゃ。これでも巫女服を着たらモテモテなんだからにゃ。それで、先祖代々のお墓を調査したことがあったんだけど、遺骨の数は墓碑と合っているから、少なくともご先祖の御言女がずっと寝てて夢を見ているというのは否定できるのにゃ」
「次は佐々木くんから説明を」
「はい。我が家に昔から伝わる佐々木大学日記でも、最後の御言女が長寿の末に死んだことは確認できるから、最後の御言女説はない。しかし、塞ノ神様が、何者かの要請で、この島の境界に細工をしていることも、ご本人からの話で分かっている。それが誰なのかは教えてもらえないがね。そうなると夢の落とし子とは、はたしてなんなのだろうか。小生の考えでは、誰かの願いや希望、もしかしたら呪いが、歪められた境界の間で澱んだ結果なのではないかと」
そこで長官が手をすっと前に出し、クロードさんの話が終わった。
「陰陽寮としては、佐々木くんの仮説を元に、原因の根本的な解決を目指している。もちろん、こんなことが国民に漏れればパニック状態に陥ってしまうから、公表していないし、おおっぴらには動けないがね。ナナキくんも、そこは理解してくれるかな?」
「ええ、あ、はい」
長官のこの問いには、いくつのことが含まれているだろうか。僕は、いくつ理解できているだろうか。だが、確実に一つは確認しなければ気が済まないことがあった。
「質問、よろしいでしょうか」
「構わない」
「先ほど長官は、〝この島は閉じられている〟とおっしゃいました」
「うむ」
「だとすると、華那琉大陸との貿易というのは、いったいどういうことなのでしょう?」
「ハッキリ言ってしまえば、分からない」
長官はお手上げだと言わんばかりに両手を挙げて、ついでに顔も横に振る。
「まず、華那琉大陸との貿易が、擘浦市の港から出港する、ハクラグループの船しか実現できていない。過去には擘浦港以外からの出港も試みられたが、気が付くと港に戻ってきてしまうらしい。この場合はハクラグループの船でもだな。そして、取引を終えて無事に戻ってきた船のことだが、こちらもやはり、乗組員が気が付くころには、擘浦港にいるとのことだ。相手の商品や伝票があるにもかかわらず。だから、分からない。……他に質問は?」
「ありません」
納得はできないが、本当に分からないのだろうと思うことにした。
「よろしい。では、君に新たな任務を与える。明星くん、詳細を」
「ええー、面倒くさいにゃー。おじさんから説明してほしいにゃ」
こんなシリアスな空間で、キュルンとした上目遣いを長官に送るニャンコ隊長。流石だぜ。
「んっんー。リサちゃん、業務命令だ。説明よろしく頼む」
「は! 了解です! ナナキ、明朝八時より監視任務を与える。対象は桜田ひまわり。一〇歳の元気な女の子だ。市民の安全のために完遂するように」
「了解であります!」
こうして二〇歳の僕は、自分の半分しか生きていない桜田ひまわりちゃんを監視することになった。ゴザルくんやララちゃんの方が適任だとは思うが、秘密作戦の都合上、やむを得ないのだろう。
だがしかし、心配は心配だ。
どうか不審者として警察に通報されませんように。
暁に雀は詠う 第二部 ― 完 ―




