夢の島(3)
「――以上が堂島錠こと堂島啓の、事件関与の全貌となります」
瞑色の制服をきっちり着こなした宵雀隊隊長・明星リサの、いつになく真剣な声の報告が終われば、集まった一同の反応は多種多様。
星読統括の三条ミゲルは、ふむ、ふむと何事か呟いている。
紺色の制服の岩竜隊隊長・ミドルトン忠行は、ぶつぶつ呟きながら、手持ちのノートに一心になにやら書き込み始めた。
対テロリスト専門部隊・竹猫隊隊長の庵原虎緒は腕組みをして目の前の机に視線を落としている。涅色の制服も微動だにしていない。
主として要人警護を担当する鉄甲隊隊長は、その栗梅色の制服から丸太のような腕を覗かせながら、しかし、体格に似合わず、落ち着きなく一同を順番に見回していた。
「馬込穐太郎くん、落ち着きたまえ」
「は。失礼しました」
三条ミゲルが注意すると、馬込と呼ばれたモスグリーンのモヒカン頭の男が途端に落ち着き払うのだから不思議なものだ。
「それで明星くん。佐々木くんを連れてきたのは?」
普段は明星リサを呼び捨てにする三条だが、会議の雰囲気を重視してのことか、一応の敬称をつけて彼女に問う。だからといって、いつもの彼の横柄な態度が消えてなくなるわけではないのだが、そこはみんないい年をした社会人であり、帝都の治安の一翼を担っている人物。そこに私情を持ち込んで会議をぶち壊すような真似はしない。
「堂島啓の異能に関して、佐々木から説明しなければならないことがあるためです。佐々木、説明を」
「承知しました。手短に申し上げます。堂島啓の異能は夢唱言霊。言祝鳥の契約者であります」
「バカな! なぜ一般人が言祝鳥と契約している!」
佐々木蔵人の発言に、三条ミゲルはすぐに声を荒げた。しかし、隊長たちは声を出すこともなく、内心はどうあれ平静を保っている。
「かの者は現在三十七歳。天網に残されていた彼の略歴を調べたところ、およそ二〇年前に星読の入隊試験を受けた記録が見つかりました」
うつむき加減に右手で顎を触っていた三条ミゲルが、顔を上げて佐々木蔵人を見る。
「二〇年前……まさか」
「その通りです。魂緒の儀を、まだ入隊試験と同時期に行なっていた時代ですね。そして彼は先代が見ている目の前で、言祝鳥の唐鶸と契約し、すぐに試験会場から姿を消したのです」
「もういい、分かった。そうか、あのときの若者だったのか。彼のことは少しだけ覚えている。確か、霊力・陰陽師適正試験の成績が抜群にいいと噂になっていたな。まったく厄介なことだ。佐々木くん、他に何か意見はあるか?」
「彼のこれまでの行動と性格を合わせると、次に起こすであろう事件も、世間の注目を多く集めるようなものになると思われます」
「次、か。可能性はどれくらいだ?」
「時期までは分かりませんが、可能性としては非常に高いと予想しております」
「そう考えた根拠があれば教えてほしい」
そのように発言したのは、ミドルトン忠行である。普段は宵雀を見下す態度を取っているが、事件のともなれば別で、実に真面目に今後の可能性を検討していた。
「堂島啓の関与が確実視されている事件についてですが、すべてある時点を境に、頻繁に発生するようになっています」
「それは今年に入ってから、という簡単なものではないかな。新年を迎えて、犯罪者が気持ちを新たに犯罪に取り組むこともあるだろう」
「確かに時期としてはその通りですが、小生は彼が活動を活発化させたきっかけは他にあると思っています。例えば、ナナキ・ウィークエンド隊員を見た、とか」
「たかが新人隊員を見て、変わるものかね?」
「さあ、どうでしょうか。その心の有り様は結局、本人しか分かりませんから。ただ、その後にナナキ・ウィークエンド隊員と接触していることを考えると、あながち間違いではないと思いますよ」
「それと活動を活発化させたことが、どう結び――」
ミドルトン隊長は、まだ何かを知りたいようだったが、三条ミゲルがそれを制した。その声には少しの苛立ちが乗せられている。
「ミドルトンくんも、佐々木くんも、その話はもういいだろう。今は将来起こりうる事件を、どう未然に防ぐかを考えるのが先だ。これについて、現時点で何か意見のある者はいるか?」
「あくまでも星読全体としてどう動くべきか、という意見ですが、これまでの犯行が明らかになっている以上、速やかに身柄の確保に動くのが最善と、手前は愚考します」
「穐太郎の意見に賛成だにゃ」
図体に違わぬ低い声と厳つい顔で馬込穐太郎が意見を出せば、明星リサが言下にそれに賛同した。
「アタイも基本的に賛成だが、三月の一件以来、外地開発反対同盟の連中がどうも大人しすぎる。そっちの監視に人手を割かなくちゃならないから、情報共有くらいしか手伝えねえ。悪い」
庵原虎緒も基本的には賛成だが、監視対象の動向を危険視しているようで、もし作戦が実施されても全面的には参加できないと主張した。
他の者はといえば、統括の三条ミゲルはもちろんのこと、ミドルトン忠行、それに佐々木蔵人も頷いていることから、全員、同じことを考えていたのであろう。
「では、これより我らが星読は、総力をあげて堂島啓の身柄確保に乗り出すものとする。なお、鉄甲については要人が狙われる可能性もあるため、また、竹猫についてはテロリストどもの活動が活発化する可能性があるため、本来任務に精励するように。なお、捜査の全体指揮はこの三条ミゲルが執る。実際の捜査については岩竜および宵雀が協力してあたること。以上、解散!」
* * *
「ふいー、やっと見終わった。統括がだいぶ美化されてましたけど、見応えがあって面白かったです。副長、続編はいつですか?」
「ふざけたことを言ってないで、見終わったなら早く帰って休め。明日から馬車馬のようにこき使ってやるからな」
そうして僕と上坂さんは寮に帰った。「星読が本気を出したら、もう捕まえたも同然だよ」などとフラグを立てながら。




