夢の島(2)
『まー、そんなわけでだね』
どんなわけかというと、見た目がゴザルくんそっくりなイケメンの人造人間ゴザル2号が、堂島綴博士を連れ去った後、「そういえば堂島啓がどんな性格なのか聞き忘れていたにゃ」とニャンコ隊長がこぼした。
それを聞いたクロちゃんことクロードさんが、途端に顔を青くして、博士の研究室に連絡を入れたと、こういうことだ。
それで今、宵雀のオフィスの大きめのモニターの中で、博士の顔が大きく映し出されているという状況なのである。ちなみにオフィスで見るときよりも目鼻立ちがはっきりしていて、ついでに少女漫画のようなキラキラしたエフェクトも見えるので、映像を補正していることに疑いの余地はない。
『弟は小さい頃からワタクシにべったりでな、それはそれは天使のようにかわいかった。あるとき、近所の悪ガキにいじめられて帰ってきたときがあったが、そのときのワタクシは、それはもう烈火のごとくに怒って、かわいい弟のためにこの拳を――』
「あ、綴姉さん。弟自慢はいいから要点を話してほしいにゃ。申し訳ないけど、時間がないのにゃ」
姉というものは、あんなに弟を溺愛するものなのだろうか。フライデー姉さんは、正直、あんなに僕を自慢するようなことはなかったし、甘やかすようなことはなかったと思う。でも、僕が見ていないところでは分からないし、そもそも外から見たら、存外に僕は甘やかされていた可能性もある。
『あんなにかわいかった弟は、いつからか……思春期の頃からだったかな。あいつは派手なことが好きになった。随分と目立ちたがり屋になってしまった。きっとカブキ者というやつになったのだな。色々あったのかもしれないが、そのときのワタクシはひっそりと枕を濡らすこともあったよ。まあ、今だったらあの手この手で縛り上げてから説教するけど』
「まとめると、派手で注目を浴びて、市民が右往左往するような犯罪を行なう可能性があるということにゃ?」
『|ザーッツライ《That right.》!』
さっきのセリフをどう理解したらニャンコ隊長の要約になるのかは分からないが、本人が納得してるんだからいいか。ニャンコ隊長とクロードさんはとても忙しいらしく、ニャンコ隊長がノートパソコンを抱えたり、クロードさんがニャンコ隊長の寝癖と乱れた服装を整えながら、テキパキと交通整理をしていく。
「綴姉さん、ありがとうにゃ。アタシとクロちゃんはこれから緊急会議なので、これにて失礼。ナナキ、上坂、ゴザルはオフィスで待機。今までの事件の情報整理を頼むにゃ」
「「「了解です」」」
「……あ、ナナキとゴザルは、アタシかクロちゃんの指示があるまで堂島啓から聞いた話を絶対に口外しないように」
「了解です?」
「了解でござる」
僕は当然、タブレット端末でこれまでの捜査資料を開く。ゴザルくんもタブレット端末を操作しているから、きっと同じことをしているのだろう。
ところが、ちらりと上坂さんを見ると、彼女がじっとこちらを見ているではないか。しかも、いつも通り感情の分からない顔で。
「えっと、僕がイケメンだからって見とれるなよ?」
一度、言ってみたかっただけだ。自分がイケメンだなんてこれっぽっちしか思ってないんだからね。
「おいで、もっくん」
「ノー! やめて! 刺すまで躊躇なさすぎ!」
「冗談よ。リッカが見てたのはね、ナナキくんたちは隊長から何を口止めされたのかなって、それを聞きたかったの」
「ああ、なるほど」
そうは言っても、彼女の言祝鳥である百舌鳥のもっくんは実際に顕現しているわけで、彼女の言う冗談が本当に冗談だったのかは分からない。
「口止めされているので言えないでござる」
ゴザルくんがタブレットから目を離さずに、そう言った。だけど、上坂さんに話すのなら、もう一つ情報を付け加えた方がいい。
「口止めされていることは、一連の堂島啓の事件とは関係がないと思うから、安心していいよ」
「そう。うっかり口を滑らせると思って期待してたんだけど、残念ね」
「上坂さん?」
「冗談よ」
「指示が出るまで口外してはいけないということは、いずれ指示が出て話せる日が来るということでござるから、それまであれこれ妄想しながら楽しみに待っていてくだされ」
「分かったわ。ゴザルくんの言うとおり、ナナキくんを刺しながら気長に待つとするわね」
「上坂さん?」
「冗談よ」
そんな和やかな差しつ差されつ、というか刺しつ刺されつの会話をすることおよそ二時間。そろそろ整理する資料もなくなってきたタイミングで、ニャンコ隊長こと明星隊長と、クロードさんこと佐々木副長が戻ってきた。二人ともやはり緊張感MAXが漂いまくっており、おいそれと声をかけられる雰囲気ではない。こういうときは、声をかけられるまで待ちの姿勢が賢明である。間違っても、「会議、どうでしたか?」とか「なんの会議だったんですか?」などと、無垢な瞳で質問してはいけないのだ。
「なんの会議だったんですか? どうでしたか?」
「上坂さん?」
思わず声が出てしまった。そんな曇りなき眼で、クソ忙しそうな上司に質問するのはどうかと思うよ?
「小生の異能で会議中に再現VTRを作ったから、今日のところはそれを見ておいてくれ。見終わったら、ナナキと上坂は帰っていいぞ。ゴシャールは残りの時間、定例のパトロールに戻ってくれ」
「了解です」
「了解しました」
「ござる」
そうして僕たちは再現VTRをポチポチして再生し始めた。会議中に再現VTRを作るのはどうかと思う、なんてことも思わずに。
場所は……ここどこだ?
恐らく僕が入ったことがない会議室。壁紙は濃い茶色の木目調で、コの字型に並べられた机の周りには、全部で七名の人物が腰掛けている。
「では、これより堂島錠事件に関する緊急方針会議を始める」
悪趣味な山吹色のスーツを纏った三条ミゲル統括の合図で、いよいよ再現VTRが動き出した。だけどこれ、再現じゃなくて録画ですよね?




