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暁に雀は詠う ― 小規模霊力等犯罪対応部隊〈宵雀〉忘備録 ―  作者: 津多 時ロウ
閑話3 彼と彼女の家庭の事情  全4話

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彼と彼女の家庭の事情(2)

 さて、女の子に……女の子って言っていいのか?

 社会に出て立派に働いている二〇歳(ハタチ)の女性を女の子って言うのは失礼じゃないかと、僕の中のジェントルメンが囁くので、ここはレディ、いや、レイディと言おう。

 レイディにここまで言わせたのだから、僕もなにか秘密を話さなければならない。これも僕の中のジェントルメンが囁いている。

 家族、家族かあ。普通の家族だから、インパクトは弱いなあ。フィクションを混ぜちゃう? それもレイディに対して失礼だよね。

 うん、普通に家族のことを語ろう。見ず知らずの僕をここまで育ててくれた、偉大な養父母と姉のことを。


「上坂さんにそこまで話してもらったから、今度は僕の家族のことを話すよ」

「え? 間に合ってるから大丈夫よ?」

「間に合ってるってなに!? いいから聞いてよ」

「かわいい下僕がそこまで言うなら、しょうがないから聞いてあげてもいいわ」

「僕って下僕だったの!?」


 でも、かわいいと言われたことは、悪い気がしない。

 悪い気はしないがこのままだと話が進まないので、僕は手早く私物のスマートフォンを操作して写真を開き、彼女に見える向きに置いた。

 彼女は悪ふざけをすることもなく、黙ってそれを眺める。

 僕が彼女に見せた写真は、前列に椅子に座った父と母、後列に僕と姉が並んで写っている家族写真だ。


「この横分け中年男性が、僕の父のナナキ・ハミルトン。隣のやや痩せていて髪の長い中年女性が母のナナキ・恵麻(えま)。その後ろ、母とよく似た顔のショートボブで丸眼鏡をかけているのが、姉のナナキ・フライデー」


 人差し指を近づけて、僕の家族を紹介していくが、なぜか彼女は目を大きく開いている。はて、何か驚くようなところでもあっただろうか。至って普通のサラリーマン家庭だから、驚くようなことなど何もないはずだけど。


「驚いた……〝ナナキ〟って名字だったのね。リッカ、ずっと名前だと思ってたわ」

「そっちかい!」


 普通、僕と家族を見比べた人は、髪の毛の色に注目するものだけど、さすがに上坂さんは着眼点が違った。


「そうしたら、今度からなんてあなたを呼べばいいの? ウィークエンドくんって、言いづらいわよね? ウィーくんもなんかいやだし、下僕だから……げぼくん?」

「そこはナナキくんでいいのでは?」


 ウィーくんも悪くないと思うが、それはやはりすでに家族が使ってるものなので、上坂さんからはもっと特別な名前で呼ばれたいという気持ちはある。もちろん、下僕のげぼくんだけは何が何でも阻止するけど。


「間を取ってクエンさんはどうかしら?」

「酸っぱくなりそうなので遠慮しておきます。ていうか、間を取っての間ってそこじゃなくない?」

「じゃあ、遠藤くん」

「もはや別人では?」

「ところで遠藤、もとい、ナナキくん。あなたの銀髪ってもしかして、脱色とか染めてたりするのかしら。お父さんは茶色で、お母さんとお姉さんはきれいな黒髪だから、あなただけ銀髪というのは違和感があるわね。あ、先天的な異常だったらごめんなさい」

「あ、それなんだけど、僕は家族と血がつながっていないんだ」

「ふーん。つまり何らかの理由でこの人たちに引き取られたと」


 もう少しビックリするものかと思っていたけど、彼女の表情は名字で驚いたときと比べるべくもなくいつも通りで、極めて平常だった。それはやはり特殊な警察という立場が、彼女をそうさせているのだろう。

 世の中には変な事件もあるもんね。耳の中に神様が住んでたとかさ。


「うん、そうなんだ。詳細は全然分からないんだけど、両親の共通の友人っていう人が、あ、その人は運送業を営んでいるんだけどね、その人がある日突然、荷物に赤ん坊が混ざってたから預かってほしいって、両親にお願いしたんだそうな。そして両親は、そのとき子供を一人も授かっていなかったにもかかわらず、快諾したんだとさ」

「その赤ん坊があなたで、文字通りお荷物だったというわけね」

「やめて、泣いちゃうから。そんなわけで、僕の本当の家族は誰だか分からないけど、両親と姉からは実の家族と変わらぬ愛情を注ぎ込まれて、すくすくと育ったんだ。星読に入隊したのも、立場を利用して実の家族を……って、上坂さん、泣いてる?」

「グスッ……家族の話に弱いのよ。本当の家族、いつか見つかるといいわね」


 上坂さんは机の上に置いてあった、備品のティッシュペーパーで目元や鼻を拭き始めているが、先ほどの話を不思議に思わなかったのだろうか。僕は人にこのことを話すとき、いつも違和感を感じていて、そして聞いた人はいつも何も違和感を感じていない。そもそも僕が違和感の正体に気付いていないのだから、説明のしようもないが、きっと今回もそういうことなのだろう。


「ナナキ、上坂、お前たちどうした。夫婦喧嘩か?」


 ふいにした声の方を見れば、隊服を着たクロードさんがこちらに歩いてきていた。もう、かなり近い。


「そんなんじゃありませんよ」


 僕は少々照れながらも慌てて否定したが、上坂さんは相変わらず涙をこぼすのに忙しくて無反応である。


「まあいい。二人ともすぐに着替えてオフィスまで来い。任意で事情聴取を行ないたい、いや、何が何でも事情を聞かなければならない人物が浮上した。お前たちにそれを任せたい」

「了解であります!」


 先ほどまで泣いていた上坂さんも、もうすっかり仕事の顔になって、「またね」と足早に去っていった。


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