人造人間ゴザル1号事件(5)
「来い! 福太郎、福助!」
「おいで、もっくん」
ゴザルくんの顔と声をしたその人形を壊すべく、僕と上坂さんは言祝鳥を顕現させた。
しかし、見つめれば見つめるほど、人造人間ゴザル1号がゴザルくんに見えてきてしょうがない。
「幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女幼女はどこでござる!?」
言ってることまで、ゴザルくんそのものじゃないか。
同僚であり友達でもある彼を、この手で破壊しなければならないというのか!?
「刺し殺せ、贄の棘」
「あ」
この女、躊躇が無いな?
右肩に百舌鳥のもっくんを乗せた上坂さんの右手から、棘のような小枝が無数に生えた木のようなものが、人造人間ゴザル1号に伸びていく。そのスピードは今まで見た中で一番速い。
これはもう決まったと思ったが、しかし、僕は念のために壁の甲式雷戈を取りに行く。そうしながら、横目で結果を見ようとしていたが、贄の棘が届こうとしたまさにそのとき、突如として人造人間ゴザル1号の姿が消えた。それを見た僕は、慌てて甲式雷戈を手に取り、意識を室内に集中させる。
人造人間ゴザル1号はきっと異能のコピーにも成功していたのだ。そして、それ今だとばかりに異能を使ったのだ。しかし、ゴザルくんが言祝鳥のアリスイと契約したことによって得られた、ほぼ完璧な隠形術には、実は致命的な欠点があるのだ。
室内に意識を集中させたことは正しくそれで、僕はすぐに違和感を拾い上げた。
「そこだ!」
「……!」
甲式雷戈がうなり、人造人間ゴザル1号の脳天を捉えた! と思ったのだが、それはすんでの所で防がれた。気づけば彼も雷戈を持っていて、バチバチと火花を散らせる雷戈の先っちょは、見事にその丈夫な柄で食い止められている。
力勝負では恐らく分が悪いと思い込んでいる僕は、とっさに飛び退いて、次の攻撃に移った。いかにアリスイの優れた隠形術だとて、その体にまとわりつく霊力を感知できさえすれば、対処のしやすさは服を着た間抜けな透明人間と同じである。それよりは難しいか。
しかし、大きく振り回した次の攻撃も、人造人間ゴザル1号にとっては受けるに易いものだったようで、簡単にはじかれてしまう。
「幼女!」
そればかりかゴザルくん本人ですら使わないようなかけ声で、僕に雷戈を振るうではないか。その動きはやはりゴザルくんの動きそっくりでキレがあり、訓練で手合わせ慣れしていた僕でなければ、防ぐのは難しかっただろう。
その後もオフィスの書類や機械が散らかし放題になるのも構わず、僕と人造人間ゴザル1号は雷戈を合わせる。実力は互角だったが、こちらには彼女がいた。
「絡め取れ、贄の棘」
僕が距離を取った一瞬のタイミングを狙い、上坂さんの贄の棘が人造人間ゴザル1号をぐるぐる巻きにする。
「ちぇすとおお!」
このチャンスを逃すまいと、即座に雷戈をその頭めがけて振り抜くが――
「幼女おぉぉ!」
「まじか」
「嘘でしょ……」
なんと、謎のかけ声とともに、人造人間ゴザル1号は棘を引きちぎり、僕の一振りからも逃れてしまったのだ。その後、始まる人造人間ゴザル1号の怒濤のラッシュ。それをなんとか捌く僕に、上坂さんが指示を出す。
「ナナキくん! リッカの贄の棘であの変態を破壊できるように、縁起をつなげて!」
「ええええ! 何その無茶振り!」
「いいからやりなさい!」
相変わらず幼女、幼女と叫びながら雷戈を振ってくる人造人間ゴザル1号。それに対して、僕はやはり攻め手を欠き、どうにか抑えこんでいるような状態だった。もしこれがオフィスを飛び出してしまったらと思うと、恐ろしくてたまらない。だって、さっきから幼女としか言ってないんだよ? 危険すぎる。
ともかく、僕はなんでもかんでも、何が何でも、ともかくやるしかないのだ。帝都の幼女たちを守るために!
「ナナキならきっとできるにゃ。知らんけど」
「たまに登場したと思ったら無責任んんんんん!」
人造人間ゴザル1号をはねのけて少し距離を取り、その隙に福太郎と福助に指示を出す。
「福太郎、福助。上坂六花の贄の棘と、人造人間ゴザル1号の縁起をつなげろ! 目的は人造人間ゴザル1号の破壊! ていうかまじでよろしくお願いします!」
福太郎と福助が人造人間ゴザル1号の頭上をぐるぐると飛び回り、そしてひときわ大きく「チューン」と鳴いた。
「上坂さん、今だ!」
「了解! 絡め取り、刺し殺せ! 贄の棘!」
心なしかテンションが高い上坂さんの右手から、再び刺々しい枝が伸びていく。それは少し前と同じように、猛烈なスピードで変態人造人間ゴザル1号に伸びていった。彼は当然、回避を試みる。同時、ラッシュ攻撃の際に切れていた隠形術を再びかけ、存在を薄くする。
おぼろげにしか感知できないが、彼は大きく右に跳んだように見えた。それだけ大きく避ければ、通常ならば贄の棘を躱すことができただろう。しかし、今の贄の棘は通常ではない。僕と上坂さんのラブラブパワーが込められているのだ。
……ちょっと言い過ぎました。もう二度と言いません。
福太郎と福助によって、改変された縁起の力が働いているのだ。いつもなら少ししか曲がらない贄の棘が、人造人間ゴザル1号に向かって尋常ではない曲がり方で追尾する。それはもう気持ち悪いくらいに曲がった贄の棘は見事に彼の体を捉え、そしてスポンジか何かのように、頑丈なボディーを何度も刺し貫いていく。
「幼女、よう…じょ、よ……」
ここに人造人間ゴザル1号は完全に破壊され、なんかよくわかんない悪臭がオフィスに立ちこめた。
「ううむ、これは……そうか。駄目だったのか」
目を覚まし、瞬時に破壊を受け入れた綴さんは、それでも少し肩を落としていたようだった。
「皆の衆、おはようでござ……るぅぅぅぅぅ!? どういうことでござる? いったい何が起こったでござるか? 拙者の、拙者の分身があぁぁぁぁ……」
遅れてオフィスに入ってきたゴザルくんは、膝から崩れ落ち、その涙が床を濡らす。
それを横目に、僕は綴さんに聞いてみた。ミーティングのときから気になっていたことだったが、聞くなら今しかないと思ったのだ。
「綴博士、ご家族か親戚に、堂島錠という人物はいませんか?」
でも、その答えは、やはり予想通りだった。
「堂島錠……。さあ? そんな名前のやつは、ワタクシが知る限り存在しないな」




