連続幼女神隠し事件(2)
さて、そういうことであるから、失踪した三人の幼女については、共通点が見当たらないのだ。もちろん、六歳という年齢と、両親が見ていないところで歩いて離れたということ、そして一部の防犯カメラに一人で歩いているところが映っているが、どこに行ったかまでは分からないという共通点はあるが、学校も住んでいる場所も失踪した場所もすべてバラバラでは、どうやって調べたものかと、青濁川の土手で橋を眺めながら途方にくれるばかりだった。この橋を渡って右に曲がれば、すぐに本署が見える場所で、進展もなく帰るのは少々気が重い。
きっと隣のゴザルくんも同じ思いに違いないとちらりと見ると、彼は仁王立ちに腕組みでこう言った。
「見えた! でござる」
え、急に恐い。
ていうか無理にござる付けなくていいからね?
「見えたって、何が見えたの?」
目をカッと見開いて言うのだから、これはきっと事件の真相でも見えたに違いない。
期待の眼差しを向ける僕の視界の中で、ゴザルくんはビシッと指を突き出した。もしや指の先に犯人がいるのか!?
目を凝らし、ゴザルくんの指の先を辿ると、そこにはやたらひらひらとしたスカートをはいたおねーさんが颯爽と歩いていた。
「見えた! でござる」
「見えた!」
見えた、じゃないから。
いや、まあ、確かに僕にも見えたけどさ。
ていうか、お前、幼女専門じゃなかったのかよ!?
おっといけない。危うく粗野なセリフが口を突いて出てくるところだった。
いや、まてよ。ゴザルくんが指さしたのは、本当はおねーさんじゃなかったんじゃないか? 本当は事件が解決に向かうような重要なものを見せたかったんじゃないか?
「ねえゴザルくん、おねーさんが見えたわけじゃないよね?」
確認は大事だ。先入観は目を曇らせる。よくよく考えてみなくても、ゴザルくんが捜査中におねーさんにうつつを抜かすはずがない。
聞かれたゴザルくんが、不思議そうな顔をしているのが何よりの証拠だ。
「ナナキ殿は何を言っているのでござるか? 見えたと言ったらおねーさんのパン――」
投げた。綺麗な上手投げでスパーンと投げた。イケメンフェイスで爽やかに何を言っているのかと。
ゴザルくんは少し頭を打ったようだが、ここは幸い土と芝生の土手だし、何よりもゴザルくんは少し頭を打った方がいいと思う。
そして彼は、仰向けで空を見上げ、俄かに目を見開いてこう言った。
「匂う、匂うでござるよ、ナナキ殿」
「いったい何が匂うっていうんだい?」
「幼女の匂いに決まっているでござろう? それ以外いったい何を――」
腰を落とした僕の拳が、滴り落ちる水の如く、一直線にゴザルくんの腹に決まる。
しかし、彼は怯まず、不敵な笑みを浮かべるや否や立ち上がった。そして俄かに走り出し、白い歯を輝かせながら言うのだ。
「行方不明の幼女たちの居場所が分かったでござる! ナナキ殿、ついてこいでござる!」
え、本当に?
この人、大丈夫?
頭を強く打ちすぎたのかな?
とは思うものの、今は解決に結びつくあてがない。ともかく、動き回るしかない。それに、この人が優秀な警察犬の如く、幼女の匂いの痕跡を辿れるという、とんでもない能力を持っている可能性だってあるのだ。いや、どうかとは思うけど。「お巡りさん、犯人はこいつです」って言いたい気分にもなるけど。それに、疑問はある。それは――
「ゴザルくん、ゴザルくん」
走りながら僕は問いかける。
「なんでござる、なんでござる」
「幼女の匂いが分かるのはいいとして、どうして失踪した三人の幼女だって分かるんだい?」
「ふ、愚問でござるよ、ナナキ殿」
「……ほう?」
なんだろう。ゴザルくんの顔は見えないけど、目がきらりと光った気がする。
「拙者の超高性能頭脳とこの恵まれた身体は、すべて幼女のために使われているからに他ならず、厳しい訓練によって、一度に一〇〇〇人の幼女の匂いを嗅ぎ分けられるまでになり申した、でござる」
よし、逮捕しよう。絶対こいつが犯人だ。
警察ミステリーでは同僚や上司、上層部が犯罪に手を染めている展開はあるけれど、さすがに入職してからすぐということはない。大抵は、あいつがまさか、そんなわけがない、という段階まで、話が進んできてからするものなのだが、まさかこんなに早い段階でお約束の当事者になれるとはね。
しかし、残念なことに証拠がない。
「ナナキ殿、何やら背後から冷たい視線を感じるでござるが」
「気のせいだよ、ゴザルくん」
「拙者の気のせいでござったか。しからば、もう少しペースを速めるでござるよ。目指す幼女たちはすぐそこに!」
ゴザルくんが走るペースを上げ、僕も当然ペースを上げた。