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暁に雀は詠う ― 小規模霊力等犯罪対応部隊〈宵雀〉忘備録 ―  作者: 津多 時ロウ
第二部 ミッション14 キラキラ・マネー777世事件 全4話

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キラキラ・マネー777世事件(3)

「こちらが前回の立ち入り捜査の結果、現在も拘留している四名のデータだ。引き続きよろしく」

「ありがとうございます」


 居酒屋カフェ・ルーレット族への潜入捜査から三日後、数少ない良識枠である岩本さんが、宵雀(しょうじゃく)のオフィスに紙の資料を届けに来てくれた。規定通りなら、資料は治安機関専用ネットワーク・天網にアップロードしてあるのだから、そのことだけを知らせてくれれば勝手に見にいくというのに、律儀なものである。

 折角だからと、岩本さんの目の前で資料をペラペラと見てみる。

 なぜ、この状況になっているかというと、僕たちの潜入捜査から二日後、岩竜(がんりゅう)と一般警察が共同で、居酒屋カフェ・ルーレット族と同じように市内で軽はずみに運営されていた安っぽい違法カジノを一斉摘発したからだ。僕たち宵雀(しょうじゃく)はそちらには参加しなかったので、こうして情報を共有してもらう必要があったわけなのである。

 しかし、これだけ大規模になってくると、小規模霊力等犯罪対応部隊である宵雀(しょうじゃく)は捜査から外されそうなものなのだが、今のところその指示はない。

 杉原の小父(おじ)さんは、違法カジノでバクチにいそしんだ時点でアウトなんだけど、それはそれとして子供の頃からお世話になっている知り合いなので、なんとかして刀の所在を明らかにしてあげたいという気持ちがあったりして、そういうことだから、外されない方が都合は良いのだが。


「拘留中の四名について、こちら(宵雀)で聴取を行えますか? 押収物は鑑識に?」

「随分とやる気があっていいことだ。これも若さかな。聴取については、こちら(岩竜)がやっていない時間なら問題ないだろう。押収品は最後の方のリストの通りだが、何か気になることでもあったのか?」

「いえ、まだなんとも言えませんが、あの独特な場の雰囲気は、もしかしたらスマートフォンに仕掛けられたものかも知れないなと思いまして」


 それを聞いた岩本さんは、感心したように目を開いた。


「それは面白い意見だ。存分に調べてみてくれ。そして何か分かったら、是非、共有してほしい」


 そう言って岩本さんは去っていき、僕は一度深呼吸をする。そうと分かれば、さっそく事件解決に向けて動き始めよう。実を言うと、僕には調べた方がいいだろうという当てがあるのだが、先ほどの資料をざっくり見た感じでは、それがされていないのだ。もしかしたら、これから調べる可能性もあるが、いずれ情報共有するのだから、こちらで早くできることは、すぐにやってしまうに限る。


「ラーラちゃーん!」


 こちらで調べる。それも僕が気になっていることを調べるには、やはり彼女――ララ・ラズベリーの助力が不可欠で、僕はありったけの敬意を込めて彼女の名前を叫んだ。


「うるさいぴょん。馬鹿にしてるのかぴょん」


 なんてこった。今日はご機嫌斜めで裏ララちゃんの日だったみたいだ。


「ごめんなさい、馬鹿にしてません、許してください」

「うむ。苦しゅうない。そこまで謝られては、(わらわ)とて許さないわけにはいかないのだぴょん」


 君の一人称は(わらわ)じゃなくて〝おいら〟だよ。キャラはちゃんと覚えてほしいな。


「ところでナナキぴょん。そんな大声で呼んだからには、おいらに何か大事な用なのかだぜ?」

「その通りなんだぜ」

「やっぱり馬鹿にしてるのかぴょん?」

「ごめんなさい、馬鹿にしてません、許してください」


 今日のララちゃん、やりづらいぜぇ……


「ララちゃんを呼んだのはあれだよ、あの件だよ。今、違法カジノがたくさん摘発されてるでしょ。それから暴力犯罪、窃盗事件が例年より大幅に多く発生している件について、事件の黒幕につながような情報があるか、容疑者の端末を解析してほしいんだ」

「分かったぴょん。でも、ナナキぴょんはおいらの上司じゃないから、隊長にお伺いをたててきやがれだぴょん」

「ごもっとも」


 機嫌が悪いのにぴょんぴょん言ってるから、あまり機嫌が悪く思えないんだけど、言葉遣いがそれなりに汚くて、なんかいや。だけど、捜査はしなくちゃいけない。僕は〝なんかいや〟くらいで諦めたりしないのだ。怖いけど。

 そんな調子だったけど、ニャンコ隊長は二つ返事でOKをくれて、無事、ララちゃんと打ち合わせに入ることができた。


「じゃあ、ララちゃん」

「うむ」


 言いようのないプレッシャーを感じるぜ。


「アップされている捜査資料の七ページ目に、現在拘留されている容疑者の簡単な資料、それから巻末近くに押収品のリストがあるので、鑑識でスマートフォンを借りてきてください」

「その前にナナキぴょん、この容疑者たちの名前を読み上げてもらっていいかぴょん。自分の目が正しく機能しているかどうか知りたいぴょん」


 やはりそうきたか。僕もね、この容疑者たちについては、思うところがあるのだよ。ララちゃんが言いたいことはとてもよく分かる。だから僕は滑舌を意識して、容疑者たちの名前を読み上げた。


「まずは、違法カジノに入り浸っていた客その一、スッタ・モンダ。客その二、イチカー・バチカー。客その三、バクチ・デ・ガッポーリ。それから胴元のチョウハン・バークチ。以上です」

「……」


 あれま。あまりの名前にララちゃんが、無表情で固まってしまった。


「ララちゃん、大丈夫? ぽんぽん痛い痛いになっちゃった?」

「……ちょっとこの名前、ひどくない?」

「しょうがないよ。きっとこの人たちは、ギャンブルに魅入られる宿命を背負って生まれてきたんだよ」


 作者が名前のネタに困って付けたような名前などとは、まかり間違っても言ってはならない。それがこの世界の暗黙の了解なのである。たとえララちゃんが自分の語尾を忘れるような事態になってもだ。


「分かったぴょん。やってやるぴょん。おいらが奴らの名前の秘密を暴いてやるんだぴょん!」


 違うぞ、ララちゃん。君が暴くのは黒幕がいるかどうかだ。


「ついてこい、やっぴー!」


 もう、すっかり話し方まで変わっちゃったララちゃんは、八咫烏(やたがらす)のやっぴーを顕現させて、鼻息荒く、オフィスから出ていった。ああは言っていたけど、彼女は真面目に捜査をする……いや、あったわ。作戦中にお菓子をボリボリ食べてたこととかあったわ。少し、ちょっと、結構、かなり心配だけど、彼女ならやってくれると信じて、僕は事情聴取に向かうのだった。


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