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明星隊長のお手伝い(3)

『あ、待って! これは』


 そこで突如、ララちゃんの慌てた声が流れてきた。


「なにかあったの?」


 と僕が聞けば、彼女はやはり慌てふためいた声で、


『帝都に多数の高霊力反応が出現したぴょん! 隊長、ご指示を!』


 だが、隊長の返事はつれない。


『急に現れたのなら211112事案だにゃ。心配することないにゃ。こっちはこっちで、人質の救出と犯人確保に全力をあげるのにゃ。……しかし、それでは応援が期待できにゃいか。ふむ……』


 少し考えこむように呟いたあと、しばらく無音が続く。

 どうするのかと眺めていたら、明星(あかぼし)隊長、今度は持ってきていた剣を(さや)からスラリと抜いて、格好良く天に突き出すではないか。月の光を反射する剣は、どことなく青白く輝いているようでいて、僕でもただ事ではない気配を感じてしまう。

 そうして、再びスピーカーから明星(あかぼし)隊長の声が聞こえてきた。


『蒼きその牙、その脚、我がために振るいたまえ。顕現せよ、天狼(てんろう)


 その声の後、隊長のクイナの横に大きな青い狼が現れた。大きくてどこか冷たいその青狼は、勝手に動き回ることもなく、凛として立っている。


『上坂!』

『はい』


 上坂さんもバックアップで詰めてたんだっけ。うん、いい声だぜ。


『私を天網(てんもう)とナナキにリンクさせろ』

『了解。携帯端末の霊力リンクスタート』


 はて? 霊力リンクとはいったい?


『説明しよう!』


 この声はまさかの上坂さん!


『霊力リンクとは、起点となる術者と、天網(てんもう)の処理能力及び霊力検知能力を組み合わせることにより、高精度の術式使用を可能とさせるものである。さらに他の隊員をリンクさせることで、当該人物の異能の一部を利用することができるかもしれないのだ!』


 いや、〝かもしれない〟ことを自信満々に言われてもな。

 ともあれ、特に自分の体に変化は見られないが、今の僕は隊長と霊的につながっている状態ということみたいだ。


『行くぞ、ナナキ! そのまま突っ込め!』

「へあ!? さささ作戦は!?」

『作戦は、突っ込めだ! 行け、天狼(てんろう)!』


 明星(あかぼし)隊長の合図で、今までじっとしていた大きな青狼が駆け出した。隊長機はそれを追うようにして、高さぎりぎりのショッピングモールの入口に吸い込まれていく。そうなれば、僕も目標が分からない作戦に従うより他ない。

 そうして僕のクイナが入り口のドアを抜けたとき、明星(あかぼし)隊長の忙しい声がスピーカーから響いてきた。


『ララ、式神と犯人をマーキングにゃ!』

『了解! マーキング完了ぴょん!』


 早い。指示から完了まで一秒もない。そこからの明星(あかぼし)隊長の攻撃はもっと早かった。


『内から出でてその(ことごと)く燃やせ、獄炎点赫(ごくえんてんかく)


 言うが早いか、奥の暗がりが一瞬だけ赤く光って、そしてすぐにもとの非常灯だけの明るさに戻る。


『式神の全消滅を確認、人質の安否は確認不能。犯人の霊力反応は……無傷だぴょん!』

『は! 蔵田のじいさんは避けたか! さすがだにゃ!』


 え、なに? 今の一瞬で一〇八体の自爆式神を全部倒したってこと? どういうことなの? それで犯人はあの蔵田(くらた)孫六郎(まごろくろう)先生なの? え、どういうこと? やばくない?


『ララ、蔵田のじーさんをもっかい(もう一回)マーキング! ナナキ、遅れずについて来いにゃん!』


 大きな吹き抜けの広場に出て、隊長機が大きく飛び跳ねた。

 僕の乗っているクイナも少し遅れてジャンプした。一瞬だけ見えた限りでは、人質は無事そうである。

 あっという間に二階が通り過ぎ、三階へ着地しようとしたとき、蔵田先生と目が合った。

 先生は笑っていた。

 今日はジャージにサンダルではない。昔の貴族の狩衣(かりぎぬ)だか水干(すいかん)のような紫色の服をビシッと着て、笑っていた。

 先行して、すぐ後ろに回り込んでいた隊長が、クイナに乗ったまま蔵田先生に突っ込んでいく。

 それは、事もなく躱されて、通り過ぎ際に隊長がクイナから飛び降りた。

 剣を真っ直ぐに蔵田先生……いや、もう先生ではないな。彼もテロリストの一味だったのだから。明星(あかぼし)隊長はニヤリと楽しそうな顔で、剣を真っ直ぐに突き出して言う。


「かかれ!」


 隊長はすでに鳥面(とりめん)を外している。ショッピングモールの中は静かで、肉声が僕にもよく聞こえた。

 かかれ。誰に命令したのだろうか。もちろん、僕も雷戈(らいか)を構えて制圧するつもりではあるが、まだ、着地できていない。

 突如、視界の端から大きな狼が現れた。一階からここまでエスカレーターを上ってきたのだろう。背後から近づくそれに蔵田はまだ気付いていない。

 僕は蔵田のすぐ横に着地した。必然、彼の視線は僕に向く。

 天狼(てんろう)が彼の背後から襲いかかった。

 全てがスローモーションのように遅く見えた。

 僕も雷戈(らいか)を取り出し、躍りかかる。

 僕の動きもスローモーションで、雷戈(らいか)はなかなか振り下ろされない。

 これは、おかしい。

 そう気づいたときには、蔵田は呪符を取り出していた。


(ばく)!」


 ああ、これだ。訓練のときに全く対応できなかった謎の術。

 蔵田の周囲に爆風が巻き起こる。

 僕の体は派手に吹き飛ばされ、頑丈な柱に体を打ちつけた。

 霞みかけた視界の中で、今度は明星(あかぼし)隊長が蔵田に斬りかかっていた。(あお)い炎を(まと)った剣で。

 あの大きい青狼は、姿が見えない。吹き飛ばされて下に落ちてしまったか、或いは。

 隊長と蔵田の戦闘は一進一退の攻防のように見えた。武器を持たない蔵田はしかし、結界を巧みに使って(かわ)し続けている。そしてわずかな隙をつき、爆風を発しているみたいだが、隊長は慣れたもので、僕のように派手に吹き飛ばされることはない。

 ああ、立ち上がらなくちゃ。

 立ち上がって、加勢しなくちゃ。

 雷戈(らいか)はどこかへいってしまったが、雷杖(らいじょう)はまだ腰にある。鳥面(とりめん)もそのままだ。

 立ち上がれ。頑張れ。立ち上がれ。


「ちゅんちゅん」


 そう言えば、福太郎と福助がまだ顕現したままだった。


「ちゅちゅちゅん」


 もっふもふでかわいい。

 うん、今はそれどころじゃないね。


「げほ、ぐぅほぉ……」


 咳をしながら、なんとか立ち上がろうとするが、どうもこのままだと二人の戦闘は、僕にとって良くない結果に終わりそうな予感がしている。


「くそ! このままじゃじり貧にゃ!」

「流石のリサちゃんもここまでかのう」

「じいさん、そろそろ疲労骨折するにゃ! 諦めて、大人しく捕まれにゃ!」


 二人の声が聞こえてくるが、見た限りでは膠着状態で、大人の事情で大きな炎を出せない隊長には、少々分が悪いようにも思えた。


「上坂さん。僕と隊長って、まだ霊力リンクはつながってるの?」


 ふと思い出して聞いてみる。


『ええ、繋がってるわよ。……なにか閃いたのね?』

「うん。だから、無事に帰れたら、僕と付き合ってください」

『突き刺し合うのならいつでも喜んで』


 なにそれ恐い。

 でも、上坂さんらしくていいか。

 どうにか立ち上がった僕は、福太郎と福助にこう言った。


「呪符を媒体に行使する術式について、煉獄の炎をもってその縁起を否定せよ。範囲は、このハクラモール内すべて」


 蚊の鳴くような小さな声だったはずだが、なぜか隊長が笑ったように見えた。

 僕の視界の中で、隊長が蔵田に斬りかかる。でもその手に持っているは、あの(あお)い炎を(まと)った剣ではなくて雷杖(らいじょう)だった。

 蔵田が呪符をピンと構え、何かを発動しようとした。しかし、その呪符は瞬時に灰と化した。そして隊長の雷杖(らいじょう)は、今までの結界の範囲を通り抜け、蔵田のあごにクリーンヒットする。蔵田はよろけただけで、倒れなかった。だから、隊長がもう一度雷杖(らいじょう)で、……と思ったら普通にグーであごを殴りましたよ、あの人。

 考えてみれば、雷杖(らいじょう)の電気ショックも呪符を使っているんだから、拳に自信があったら、それは殴った方が手っ取り早いか。

 蔵田を縛り上げ、どこかに連絡した隊長が、僕の方に駆けよってくる。その顔は当然、満面の笑みである。


「ナナキ、よくやったにゃ」

「いえ、僕なんかとても。皆で力を合わせた結果ですよ」

「まあ、その通りだけどにゃ」

「えぇぇ……、そこは褒めて下さいよ」

「もちろん冗談だにゃ。ところで……」


 ニャンコ隊長、急に真面目な顔になる。

 なんとなく言いたいことは分かる。異能のことだろうけど、できればそれは聞きたくない。


「任務中に告白するにゃんて、お前もなかなかやるにゃ! お姉さん、応援するからにゃ! あ、もちろんみんなには内緒にしてやるけどにゃ」

「え、そっちですか?」

「そっち? なんのことだと思ってたのにゃ?」

「てっきり僕の異能のことかと」

「ああ、あれ。確かに強力かもしれないけどにゃ、アタシの朱雀(すざく)や平岩のラプスカムイなんか、その気になれば帝都を壊滅させられるし、クロちゃんの以津真天(いつまで)なんかは帝都どころか国をいくつも滅ぼせるから気にすんにゃ」

「はぁ……」

「そんなことより見ろ、若人(わこうど)よ。お天道様が眩しいじゃにゃいか!」


 芝居がかったニャンコ隊長の視線を追うと、大きな窓からはもう日が差し込んでいた。

 窓に近づき外を見ると、朝日を浴びて輝く外地の街並みは、雑然としていながらも力強い。でも……


「ところで隊長」

「なんにゃ?」

「蔵田さん、なんでここにいたんですかね?」

「ま、まじか……」


 ニャンコ隊長の顔がみるみる青ざめて、そしてすぐに戻った。大量の汗と一緒に。


「だ、大丈夫にゃ。あのじいさん、襲いかかってきたし、もももももも問題はないはずにゃー」


 そうして書類整理から始まった長い夜は、朝日とともに終わりを迎えた。

 人質は全員無傷で救出され、蔵田(くらた)孫六郎(まごろくろう)の罪も、今後の捜査によって明らかになるだろう。

 そんな清々しい気分も、平岩先輩やゴザルくんに茶化されてぶち壊されてしまうのだ。これは誰が悪いというわけでもなく、そりゃあ、鳥面(とりめん)を被ったままで任務用の天網(てんもう)の回線を使ってたんだから、誰でも聞けるよね。聞きたくなくても勝手にスピーカーから流れてきちゃうよね、僕と付き合ってくださいって。

 そんなわけで、僕はこのあと、何かにつけて茶化されることになるのだった。



  *  *  *



 父さん、母さん、姉さん、お元気ですか?

 ハクラモールの事件は大変でしたが、報道のとおり、無事に犯人の身柄を確保できました。お陰で、僕も少し自信が付いてきたように思います。この調子で自信をつけていけば、いつか本当の父さんと母さんに会いに行けるんじゃないかと思ってます。



 暁に雀は(うた)う 第一部 ― 完 ―


この度は『暁に雀は詠う』をご覧いただきまして誠にありがとうございました。

少しでも面白いなと思った方は、是非、いいねやレビュー等をお願いします。

なお、第一部完としましたが、第二部以降についての掲載等は現在のところ未定となっておりますので、いったん、完結設定にいたします。

また、人気が出なかった場合には、本作品の小説家になろうでの掲載はここで終了となりますのでご了承ください。

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